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ニュースを感情論で終わらせない思考の4ステップ

野村今年3月に出版された『』、大きな反響を呼んでいますね。

山口タイトルと中身が全く違うという反響が、一番大きいです(笑)。タイトルはキャッチーでライトなのに、開いてみると思考法について重い内容なので。

自分にとって思考法はすべての根幹、OS(オペレーションシステム)とも言うべき原点なので、ものごとをどのように考えているかを書き表しておきたいと思い、本書の執筆にかかりました。

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野村本の前半は思考法について、後半は2020年以降の社会について書かれています。

まず思考法について伺いますが、取り上げたいのが「情報を摂取すればするほど、思考ができなくなる」という山口さんの主張です。この情報化社会の中で、たいへん興味深いと感じました。

山口はい、情報によって思考が混乱するので、できるだけ取らないようにしています。これは、コンサルティングファームで企業再建やM&Aをしていた頃からの習慣ですね。

野村ビジネスパーソンとしては、取引先と時事的な話をしなければいけない場面もあると思いますが、そんなに潔く情報を捨てられるものでしょうか。

山口上司が日経新聞を読んでいたので、いいかなと(笑)。上司は会話や親しみやすさで相手の信頼を得るタイプですが、僕は違います。会話のキャッチボールをせずに、最初から本題に入るんです。

野村雑談はいらないと。

山口ただ、ときどき目にするニュースの「全体像」には興味があるし、よく考えます。

たとえば少し前に、吉本興業の闇営業の問題がありましたよね。それを見て「闇営業は怖いよね」とか「でも、そうしないと芸人も食べていけないなら可哀想だよね」と言うのは、単なる感情論で生産性がありません。その全体像を咀嚼し、自分ならどうするか言えるところまで考えを成熟させるんです。

___ST_208山口揚平/ブルー・マーリン・パートナーズ株式会社 代表取締役

野村山口さんが思考する際の「作法」を伺いたいんですが、ある現象、例えばニュースを見たとき、頭の中はどう動くのでしょうか。

山口現象そのものはたいてい氷山の一角なので、全体の構造、輪郭を見るようにしています。

はじめに、「なぜこの問題が起こったのか」「なぜそれが社会的にピックアップされたか」といった原因を把握する。次に、そのニュースがどう決着し、どんな新陳代謝を生むかを考察します。

そしてもう少し解像度を高めたいので、他に関連した事例がないかを探します。先ほどの吉本興業の話題でいうと、ジャニーズ事務所の独立問題も記憶に新しいし、「のん」が事務所を独立する際にも一悶着があったでしょう。

野村はい、はい。

山口そうすると、ことの本質が見えてくる。芸能事務所と所属タレントの問題がここ数年で再三浮かび上がるということは、芸能界の構造が時代に合わなくなっているのではないか、と考えることができるわけです。

1.原因、2.結果、3.類似の具体的事例、4.本質。この4方向で考えると、ものごとを俯瞰して見られるようになります。

野村なるほど。日々襲いかかってくる膨大な情報の中で「これは時代の変化を表しているかもしれない」と山口さんのアンテナに引っかかるのは、どういうものですか。

DSC04363野村高文/NewsPicksアカデミア編集長 (Photo by Yuko Tanaka)

山口その業界の「大物」が傾くときは、構造が大きく変化する予兆だと察知します。吉本やジャニーズも芸能界の大物ですし、働き方改革の大きなきっかけになった電通の過労死問題もそうですよね。

野村何か大きな変化が起こるぞと察知したら、次に何を考えるのでしょうか。

山口「so what?(その意味は?)」と、次に何が起こるかを考えます。

これまでトップダウンでやってきた芸能界の構造が崩れつつあり、一方でボトムアップ型のユーチューバーが、インフルエンサーとしてぽつぽつ出てきた。この状況をみると、芸能界はプロダクション型からエージェント型にシフトしていく過渡期だと読み取れます。

じゃあ、エージェント業界は儲かるのか、もし参入するならどんなビジネスモデルなら儲かるのか……と実際にやるかどうかは別にして「打ち手」を考えますね。

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野村先ほどおっしゃっていた「自分ならどうするか言えるまで考えを成熟させる」とは、そのレベルまで落とし込むということなんですね。

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コミュニティの中は時間、外はお金で決済する

野村本書の後半では、2020年以降の社会について言及されています。中でも、「お金を貯めるよりも信用を貯める時代に移っていく」といった貨幣に関する思想には反響も大きかったのではないでしょうか。

山口そうですね。貨幣に関してはいろんな論点がありますが、何よりまず、貨幣経済が進み過ぎて社会が窮屈になっていること重要だと思います。

野村窮屈になっている?

山口お金に換えるという行為は、「数値化する」、つまり「無機化する」ことです。例えば、1杯のコーヒーに込められた生産者の思いや入手経緯などのストーリーは、「1杯500円です」と値段をつけた瞬間に、瞬く間に消えて無くなってしまいます。一方、人間は有機的な存在なので、決済するごとにつながりとストーリーが切れ、孤独が増すんですね。

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「決済」とはそもそも、自分と相手の関係を終わらせることをいいます。実は、finance(ファイナンス)とfinish(フィニッシュ)の語源は、同じラテン語の「finis(フィニス)」です。離婚するときに慰謝料を払うのは、その最たる例ですね。

野村なるほど!関係を終わらせるときに、お金を払う、と。

山口はい。昔は、お金を払うのは1日に1~2回程度でしたが、今はスマホの普及もあって決済する機会が多すぎる。そのたびに他者と「関係を終わらせる」のですから、疲れるのも当然です。

近い将来、その息苦しさから逃れたくなって信用の貸し借りをするようになるんじゃないでしょうか。ブロックチェーンのような技術で誰が何をしたかすべて記録できますから、それを集計して1年後に清算する、といった方法を採るほうがいいのかもしれません。

野村すべて記録され蓄積される……となると、信用を積み重ねることが大切なんでしょうか。

山口そうですね。人と人が良い関係を築き、「あれをしてくれた」「これをしてもらった」と信用を貯める。するとさらに人間関係がスムーズに回り、また信用をやりとりでき、さらにつながりが強くなるわけですから、ヘルシーでしょうね。血液がよく回ると血管が太くなって健康でいられるのと同じです。

野村ということは個人よりも関係のほうが、重要性が高いと。

山口そう思います。そもそも、いろんな情報が1つにガチャッと集まって1個体に見えているだけで、個人という概念自体が曖昧なんです。たとえば今、この部屋に4人いますね。

野村はい。

山口4人の意識が混ざったこの空気は有機性をもつので、どこまでが自分かという境界は曖昧です。そもそも、そこにあまり意味はない。それを無理やり個人の枠にはめるのは、ハードディスク主流の20世紀型コンピュータの発想です。

今後ネットワーク社会では、一つのコミュニティというエコシステムの中に、自分の意識が漂う感覚になってくると思います。

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野村そうすると、働いて給料や対価をもらう考え方は、どう変化すると思いますか。

山口食品や生活用品などコモディティ化した商品を得るには、便利だから今までどおりお金を使ったらいい。一方で、誰かと誰かのコラボレーションで生まれる価値については、お金よりも「30時間使ってくれたから、その分を自分の得意分野で返そう」と、時間をベースにやりとりするほうが合うような気がします。もちろんその中に、年齢や立場による「レート」はあってもいいと思うんですけど。

そして時間のやりとりによって生まれたプロダクトをコミュニティの外に出すときに、課金するのです。

価値を生み出すときは金銭でなく「時間のやりとり」を行う。コミュニティの外ではマネタイズするけれど、中ではマネタイズしない。従来の経済と違い、時間はみんなで使ってみんなで享受する。いわば、ホームパーティー型の経済です。

これは裏返せば、貨幣はコミュニティとコミュニティを分けるものであるといえるでしょう。

iStock-1061369956Photo by i-Stock/MicroStockHub

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これから持っておくべき3つのコミュニティ

野村ああ、少しわかってきました。たとえば、草野球チームという一つのコミュニティがあるとします。試合のときにAさんが「今日は私、車出すよ」、Bさんが「グラウンド、予約しておきました」と話す。そうするとコミュニティ内でAさんやBさんに信用が貯まります。

別の機会にAさんが車を使えない場合、貯めた信用のおかげで誰かが車を出してくれるけれど、コミュニティの外にお願いするとタクシーのようにお金が発生する。こういうイメージでしょうか。

山口そうです、わかりやすい例えですね。 ですから今の社会のように、すべてを通貨で決済しなくていいんです。コミュニティ内部に対しては価値貢献し、外部に対しては価値創造をする。そう分けて考えれば少し生きやすくなると思います。

野村そうしたネットワーク社会になるのであれば、これからは1人が複数のコミュニティに所属するほうがいいのかもしれませんね。

山口そうですね。ただ、実際はそんなに簡単じゃないかもしれませんね。コミュニティに入る際には、挨拶をして、貢献して、認めてもらう必要があります。なので、クリック1回で入れるLINEグループのようにはいきませんから。

野村なるほど。

山口理想としては、3段階のコミュニティがあればいいと思います。

1つは、生きていくためのセーフティーネット。家族や、家族がいないなら疑似家族・拡張家族でも構いません。誰かと生活圏をシェアすることが大事なので、とりあえず一人暮らしはやめたほうがいいでしょう。

2つ目は稼ぐためのコミュニティですね。誰とどう付き合って、どのように信頼関係を作り、仕事を回していくか。フリーランスであれば、その引き出しの多さ・深さはとくに重要となります。

3つ目は、社会はどうあるべきかというビジョンを共有するコミュニティです。

野村1つ目、2つ目はわかりますが、3つ目の「ビジョンを共有する」とはどういうイメージでしょうか。

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山口ビジョンを言い換えると目指すゴール、あるいは大切にする思想ですね。わかりやすいところだと「2050年の日本はどうあるべきか」のように政治的なものでもいいし、「動物は殺すべきではない」でもいい。あまりに過激だと友達が減るので(笑)、もっと軽いものでいいんですけど。

野村自分の中で「こうした社会が理想だ」というのを持っておいて、それに共鳴する人とつながる、と。

山口そうですね。イメージとしては、サークル活動に近いかもしれません。

野村そうした新しい経済の世界に入っていくために、個人としてはどうすればいいと思いますか。

山口今までの自分とはパラダイムの違う世界に、少しずつ時間を割くことです。働き方改革の流れで、帰る時間が早くなった人も多いでしょう。その時間を利用していろんな集まりや勉強会に出かけていくと、どんどん人とつながっていくはずです。

今、いろいろなコミュニティが立ち上がっていると思いますよ。

野村3つのコミュニティを持つための第一歩を踏み出してみよう、ということですね。貨幣とコミュニティのおもしろいお話を、ありがとうございました。

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*山口揚平氏が経済や社会の大局的な変化について語ったNewsPicksアカデミアのイベント「新しい経済」(2019年7月25日開催)は、にて視聴可能です。