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「働き方改革」は成功したか?

三浦「働き方改革」というフレーズは流行語大賞にもノミネートされ、多くの方が耳にしたことがあるのではないでしょうか。

今回のイベントでは、「働き方改革は本当に今の通りでいいのだろうか」というテーマについて、北野唯我さん、沢木恵太さん、麻野耕司さんと考えていきたいと思います。

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現在、働き方改革の名のもとに、企業が労働時間を一方的に決め、社員一人ひとりの自由が奪われているのではないかという論調が生まれています。

例えば、総務省の「社会生活基本調査」からリクルートワークス研究所が作ったデータでは、残業減のしわ寄せなのか、昼休み労働が増加しているという調査が出ています。これは、ワークライフバランス”を守ろうと企業が定時退社を徹底した結果、社員たちは業務を終わらせるために昼休みを労働時間に充てなければならなくなっているということです。

このような本末転倒な状況を見ると、「働き方1.0」から「働き方2.0」を飛び越えて、「働き方3.0」への改革が必要なのではないかと思います。

「働き方1.0」とは昭和の働き方です。

「仕事=人生」で、キーワードは“猛烈社員”や“企業戦士”、あるいは栄養ドリンク・リゲインのコピーでもあった、“24時間戦えますか”。かつては称賛されていたこれらの言葉も、今の時代ではインターネット上で火だるまになりそうです。

____P1A4637三浦崇宏/The Breakthrough Company GO 代表取締役

次に、平成後半になって、「働き方2.0」が生まれます。キーワードは“ワークライフバランス”や“ブラック企業”。「残業の抑制」や「労働時間の短縮」が価値とされてきました。

今の「働き方改革」は、「働き方1.0」から「働き方2.0」への動きです。ここでは、「仕事一辺倒になっていた働き方を見直そう」という大号令のもと、労働時間の総量が見直されていますが、個人の考えや価値観を無視した是正ともいえます。だから、「仕事は人生を充実させるためにこそある」という前提に立ったとき、労働時間の限度を一律に決められてしまっていいのかという問題が出てきました。

「死ぬまで働け」という考えから脱し、「自分の人生を大事にしよう」という考えにたどり着いたことで、生きがいと労働の関係が浮き彫りになりました。その関係性を改めて考えることで「働き方3.0」が見えてくる、というのが僕の考えです。

さて、「今の働き方改革は成功だったのか」という問いについて、3人の考えを聞いていきたいと思います。

事前にアンケートに回答してもらったところ、北野さんの答えは、YESでありNO。そして、キーワードに「過度な残業の抑制」と「平均給与」、「貧困率」を挙げています。沢木さんはYESで「ただ、さらなるアップデートが必要」と。麻野さんはNO。「組織のあり方改革が必要」としていますね。

まず北野さんから、意見を詳しく聞かせてください。

北野私は第1段階としては成功したと考えていますが、第2段階としては、まだ未達成だと見ています。

労働状況に関するデータを見ると、残業時間、平均給与、貧困率のどれも、2012年を底として徐々に改善されてきました。2012年はリーマンショックから立ち直る途中だったため、すべてが働き方改革によるものとは言い切れませんが、データを見れば事実として改善されてきています。

____P1A4674北野 唯我/著述家、ワンキャリア・オープンワーク 最高戦略責任者 執行役員

一方で、多くの人々が楽しんで働けているかといえば、そうでもありません。世論調査や人材コンサルティングを手掛けるアメリカのギャラップ社が、各国の企業を対象に、仕事への熱意度を測る従業員のエンゲージメント調査を行ったところ、日本は「熱意あふれる社員」の割合がかなり低かったことは有名ですよね。

多くの社員が幸せに働けているとはいえないため、第2段階としてはまだまだという思いです。

三浦沢木さんはYESですが「さらなるアップデートが必要」としています。北野さんと似たイメージでしょうか。

沢木北野さんの意見に近いですね。働き方改革の目的が意識と行動の変容だったとすれば、「働き方1.0」から「働き方2.0」への動き自体が意識の変化を表しています。だから一定の意味があったと考えられます。

しかしそこから成果を求めようとすると、労働時間ではなく、その先の部分を考えていかなければならないはず。改革自体は一度行われたものの、さらなる改革がまだまだ必要です。

____P1A4696沢木 恵太/株式会社おかん 代表取締役 CEO

三浦確かに僕も、労働時間の改善の先にある、労働の質の改善や社員の感情への対応が求められていると感じます。2人の意見を受け、NOという意見の麻野さんはどういう考えですか。

麻野私は、働き方改革は成功していないと思います。

三浦ハッキリ言いますね。

麻野私は現在、リンクアンドモチベーションが出資しているオープンワークという会社を経営していて、各社社員のクチコミデータも多く把握しています。

オープンワークのデータでは、2010年の平均残業時間は45時間です。それが2018年には、30時間に減っている。この労働時間の減少は、働き方改革によるものだと推測されます。

三浦なるほど。

麻野労働時間の減少は、もちろん重要なことです。ところが、2010年には5段階評価で2.9だった社員の士気が、2018年には2.8に下がりました。

データでは、残業時間こそ減っているものの、社員の士気が上がっているわけではありません。原因を突き止めるのは非常に難しいのですが、働き方改革を通じて「労働は苦役だ」という考えが、社会にさらに染み付いたという可能性もあるのではないでしょうか。

つまり働くことを「嫌なこと、苦しいこと。だから時間を短くしよう」という感覚が広がったのではないかと見ています。

____P1A4722麻野耕司/モチベーションエンジニア、株式会社リンクアンドモチベーション取締役

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仕事は、個人の価値観を具現化するもの

働き方改革も今のまま終わらせるのではなく、労働時間の適正化とともに、誰もが前向きに働ける、働くことは面白いと思えるような環境をつくる必要があります。

三浦まさにその通りですね。

労働時間の削減といわれますが、僕は“労働の濃縮”と捉えたらいいという考えです。その仕事をどれだけ効率を高めて濃くしていけるか。そういった意識の変化だけでも、かなり違ってくるのではないでしょうか。

麻野長い短いではなく、濃いか薄いか。確かに、労働を濃さで考えるのは面白いですね。

三浦「労働濃度」と言えるかもしれません。

これまでの日本人の働き方は、「働き方1.0」が「仕事=人生」、「働き方2.0」は「残業抑制」と「労働時間の短縮」でした。その流れから、「働き方3.0」は一体何かと考えたとき、「多様な価値観を尊重した働き方」になるのではないかと。

時代の流れを振り子のように見れば、「仕事=人生」から「仕事なんて嫌なもの」へと、両極に振れています。そこから揺り戻しが起こり、現在は「俺は死ぬほど働きたい」という意見と「仕事はあくまで家族を養うためのものだから、家族を大事にしたい」という意見が混在した、中間に位置していそうです。

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そんな時代に重要になのは、多様な価値観を尊重すること。仕事はそれぞれの価値観を具現化するためにあるという、“ワークライフバリュー”の考え方が、それを叶えるのではないかと思います。

実際に、働く人の価値観に影響を与える要因は多岐に渡っています。仕事のやりがいや承認・権限・評価、職場環境、雇用形態、人間関係などです。一方、個人としても、健康や性別、他国籍になれば国籍や宗教も価値観に影響を与える可能性があります。

もちろん、社会との接点も価値観に影響を与えることがあります。例えば育児をしないといけない、介護もしないといけない、地域のこともコミュニティも考えなきゃいけないと。

仕事を考えるとオフィスでのことばかり考えがちですが、働き方にはそれ以外の要因も大いに関わってきます。それらの数ある要因のなかで、自分が何を大事にするかによって、自己実現のルートも変わってくるものです。

離職は会社都合と自主都合の2つにわけられますが、53.3%は自主都合退職とされています。その要因を分析したとき、実は「働くのが嫌になった」というモチベーション要因は19.1%で、モチベーション以外の要因が80.9%を占めています。

要するに、モチベーションがなくなったから辞めることは少なく、実際には働きたいという気持ちがあるにも関わらず、何らかの理由で働くことができない場合が大半なのです。

これからの働き方改革に必要なことは、画一的な価値観の押し付けではなく、一人ひとりの価値観に合った多様な働き方を認められる会社、そして、その会社が成立する社会をつくることです。それが“ワークライフバリュー”の大枠の考え方です。

これまでの働き方改革における “ワークライフバランス”の掛け声は、行き過ぎた労働のバランスを保つために必要な劇薬だったのかもしれません。

しかしこれから先は、理想の働き方を一人ひとりが価値観に合わせてつくっていく“ワークライフバリュー”が必要です。そして、それこそが「働き方3.0」ではないかと思います。

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第2回は

*本記事は、2019年8月7日に開催されたNewsPicksアカデミアのイベント「働き方3.0」を編集したものです。イベントの全編は、より視聴可能です。