第1回は

第2回は

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会社の体質を変える戦いは10年も20年も続く

――冨山さんは東芝や日産のような会社についてはどう思われますか?

冨山この2社はなかなか大変な状態になっていますよね。

東芝の方には申し訳ないですが、東京大学を良い成績で卒業し、東芝や日産に行く人は、東京勤務がいいからという人が多かったのです。こういう人が多い時点で微妙なんですよ。

そんな人が今日話しているようなタフな競争に本人が向いてるかどうかというのは、学校の成績とは関係ありません。

_P1A0956冨山和彦/経営共創基盤 代表取締役CEO

もちろん、東芝にはエンジニアとして非常に優秀な人が数多くいました。だから、ノートパソコンの『dynabook』事業もフラッシュメモリー事業もうまくいったのです。

ただ結局、企業体全体として持続的な成功にはなりませんでした。なぜなら、こういった成功話は、途中から派閥争いに変わってしまうのです。

こういう問題は根が深い。日立の場合も、川村(隆・現京電力ホールディングス会長)さんと中西(宏明会長)さんの時代に潰れかかって、思い切った改革を行いました。

そのあと、ガバナンス改革はもちろんジョブディスクリプション(職務記述書)などのさまざまな取り組みを続け、今日話したようなことに対応できる会社に変えようとしているのです。

そういうことを持続して行わなければならないのですが、多くの場合、危機のときに申し訳程度に事業整理を行ったあと、一息ついたら元に戻ってしまうのです。

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パナソニックも、実はそういうことを繰り返してきました。中村(邦夫特別顧問)さんの時代に改革を行った時も大変でしたが、結局そこで松下電器産業と統合し、あの時点で正しいことをやっているんです。

ところが問題の根本は、なぜそうなってしまったのかということ。要するに、なぜ事業がどんどん弱くなり、競争力の低下した事業が増えていくのか。そのときになぜ、事業のポートフォリオを入れ替えられないのかということが、今日の最も根源的な問題なのです。

パナソニックという会社は、創業者の松下幸之助さんが家族主義経営で、社員の葬式まで面倒を見るという、極めて同質的で連続的な集団、強い集団を作るという考え方で経営を行ってきました。

それが、幸之助さんが現役の時代には極めて革新的でした。むしろ戦前の日本企業のほとんどは徹底した資本主義で、そういう中で家族主義経営は革新的だったのです。

ところがその耐用期間が過ぎた時に、その最も根本である、松下幸之助さんが作り上げたもののかなりの部分を否定しなければならなかった。ただ、そこまで手がついていませんでした。

それでまた結局パナソニックが経営危機になり、今度は津賀(一宏社長)さんが出てきて、また経営改革に取り組んでいる。もう2回も同じ病を繰り返しているということは、やはり根本的に体質を変えなければならいということです。

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会社の体質を変える戦いには、10年以上の時間がかかります。実際、100年の歴史がある会社なら、その100年の中でできあがった仕組みを変えるわけですから、そんなに簡単には変わらないでしょう。

実際、日本も幕藩体制、封建体制から明治の近代国家になるまで何十年もかかったわけです。なかでも黒船来航が嘉永6(1853)年で、西南戦争が明治10(1877)年ですから、黒船が来てから、30年近くの時間が経っているのです。

体質を変える戦いは、それぐらいの時間がかかるものなので、いかに持続的な改革努力を長期にわたって行うかが大事だということになります。

だからむしろ東芝はこれからです。英明な君主が出て長期政権を敷き、かつ英明なガバナンスボードができて、そのボードのメンバーたちが、10年20年と努力を続けられるかどうか。

当然、その過程の中には、非常に辛い時期がありますが、そこで改革の手を緩めてはなりません。実際、改革の手を緩める誘惑は多くあるものです。

でもそれを、歯を食いしばって乗り越えていかないと、100年生き残れる強い会社にはなれません。

その意味で、東芝が経営危機に陥ってからまだ3、4年しか経っていないので、今この段階で成果が出るはずがないのです。

「危機に陥っても変われない」「傷みを伴う決断がなされない」というのは、そもそも、そういうことができないでいるのか、やっているのにまだ成果が出ていないのかのどちらかです。

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やっと「普通の経営」ができるようになったソニー

――ソニーはどうですか?平井(一夫会長)さんも退任されましたが、7年間でソニーの業績はかなり回復しています。

ソニーも結局は同じですよ。既に古くて大きな会社なのです。

ソニーに限らずすべての会社は、最初はイノベーティブです。パナソニックもトヨタも日産も、最初はイノベーティブな企業でしたが、あれよあれよという間に、大きな会社になってしまったのです。

そうしたなかで1990年に、ソニーも同じくデジタル・トランスフォーメーションの波にぶつかったわけです。その頃から、今の日本で起きているのと同じことが起こり始めています。

そうすると結局、根本的な問題は同じで、古くて大きな会社は、デジタル・トランスフォーメーションなどの非連続的な変化に対してどう対応するかということになります。

にもかかわらず、多くの人は問題をはき違え、「ソニーはもう1回『WALKMAN』を作ればいいではないか」と言います。でも、ああいう斬新な商品はソニーのように古くて大きな会社から出てくることはなかなか難しいのではないでしょうか。イノベーティブな商品は、たぶん『PlayStation』が最後だと思います。

aflo_1070910562019年、ウォークマンは発売40周年を迎えた(Photo by つのだよしお/アフロ)

結局、ソニーはAppleの『iPod』に駆逐されてしまいました。なぜAppleができたかというと、スティーブ・ジョブズが1人ですべてを決めていたから。

たとえば、Appleはかつて『PowerBookG4』の筐体にチタンを採用したことがありましたが、「僕はチタンが好きだから」で決めていたわけです。チタン好きなんですよ、ジョブズは。

また彼は、高等教育機関やビジネス向けのワークステーションを手がけるNeXT Computerという会社を作りました。同社は当時、Ph.Dの学生をマーケットとして想定していたのです。

当時は、学校のコンピュータを借りていくのに面倒な検査をしなければならなかったのですが、(『NeXT』を持っていれば)Ph.Dの学生は自分のコンピュータで計算できるので便利だったのです。だから、いつもスタンフォードのブックストアに『NeXT』を置いていました。

ところが、フルチタン製でピカピカで、高いからなかなか売れない。でも要するに、Appleはそういう意志決定をする会社だと、わかっていたんです。

そうするとソニーが破壊的イノベーションに対峙するには、自社が古くて大きな会社だということを前提にして、経営者の判断で事業や機能の入れ替えをすることができなければいけません。

その意味でソニーはやっと普通の会社になってきたのです。

――最後に、社長候補者の皆さんに向けて、メッセージをお願いします。

皆さんが、自分に資質があり、CxOを目指す素養があると思っていて、やる気があるなら、ぜひ挑戦してください。

先ほど心のバランスシートの話をしましたが、裏メッセージを言うと、自分が良い仕事をすることで多くのステークホルダー、それは従業員かもしれないし、取引先かもしれないしお客様かもしれないですが、そういう多くの人たちの中で人生をより良いもの、より幸せなものにすることができる仕事は、ほかにあまりありません。

いろいろ大変だとは言いましたが、CxOはチャレンジする価値のある仕事です。 それはグローバル企業はもちろんローカル企業でも同じですが、いかんせんグローバルな産業においてこの層が薄いことが日本社会の弱点だと僕は思っています。

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とはいえ、日本のオペレーショナルな現場は強いですよ。「5分おきに走る新幹線が事故を起こさない」というのは、絶対に日本でしかでききません。

そして、そのすごさを生かすも殺すもリーダーシップ次第です。

こういう国にはリーダーシップが効くんです。逆に、オペレーションが駄目なところでリーダーがいい仕事をしても、仕方ないのです。

皆さんが、そういう素晴らしいリーダーになり、素晴らしい仕事をしてくれれば、僕は日本の未来は明るいと思っています。頑張ってください。

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冨山和彦氏・中西宏明氏 共著『