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日本型マネジメントでは破壊的イノベーションを生き残れない

――この『』の刊行についての思いを聞かせてください。

冨山まず最初にこの本で言いたかったことは「社長とは何をする人なのか」ということです。

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日本の会社はボトムアップ型のマネジメントスタイルを取ることが少なくありません。専門用語で言うと「オペーショナル・エクセレンス」、すなわち現場の優れた業務遂行能力において、日本はかつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と賞賛されていました。

その結果、自動車産業で日本メーカーがアメリカのメーカーを駆逐し、電機産業で日本のテレビやラジオやオーディオ製品が世界を席巻しました。

この時代は、破壊的イノベーションがまだ起きていなかった頃で、いわば日々改良改善をコツコツ積み上げて行く競争でした。ところが、ちょうど日本が平成に入りバブルが崩壊した頃、2つの不連続な変化が世界を覆ったのです。

1つはグローバル化です。これまで全く存在感のなかった中国が突然勃興し、巨大なマーケットになると同時に、強大な競争相手にもなりました。

もう1つはデジタル革命です。この結果、ビジネスモデルもガラリと変わりました。デジタル革命の時代に破壊的イノベーションが起きると、ある日突然、ビジネスがなくなってしまいます。

皆さんはスマートフォンを持っていますよね。かつて日本では通信事業者、つまりキャリアが偉く「メーカーはキャリアが言う通りの端末を作る」ことが、日本の携帯電話会社のビジネスモデルでした。

ところがiPhoneのアップルや、端末にAndroid OSを搭載したサムスンなどのメーカーが、世界中の顧客を相手に広く商売を始めるようになった。

一方、日本でキャリア向けにいくら携帯電話が売れたといっても、日本の人口は世界の人口の70分の1ですから、キャリアが主動する商売は、突然消えてしまいます。

_P1A0871冨山和彦/経営共創基盤代表取締役CEO

ここで大事なことは、キャリアのトップが「これからは北米やヨーロッパの大きなマーケットを狙うべきで、日本市場には多くの人材を割くことはできない」と決断することなのです。

ところが、オペレーショナル・エクセレンス型の企業は、全てをボトムアップで決めていくので「現場を中心に課長が印鑑を押し、部長が印鑑を押して、関係者も交えて話し合い、擦り合わせをしながら丁寧に意思決定をする」というスタイルを取る。

それでは破壊的イノベーションがもたらす不連続な変化に対処できず、現状維持に陥ってしまいます。そのために日本のメーカーは次から次へと、自社の事業を「殺されて」きたのです。

1年2年で世界がガラリと変わってしまう今、どこかで苛烈な意思決定をしなければ、日本企業はこうした変化についていけなくなるでしょう。

その意味で、ある局面でリストラなり事業撤退なりの意思決定を行うのは会社全体としては合理的なのですが、ずっとその事業を手がけてきた人からすると、これまでコツコツやってきたことを全否定されたも同然です。

その事業に関わった人にもそれぞれ人生があり、生活があり、家族もある。そうしたものを、ある意味で切っていかなければならないわけです。それを切ることができなければ会社が全滅してしまう。したがって、意思決定で生じる恨みはトップが背負うしかないのです。

だからよく「今度の社長は現場の評判がいいんだよ」と言いますが、これが危ない。こういう時にそんな人が社長になったら会社は潰れてしまうでしょう。そう考えると、今どきのリーダーにとって、決断が極めて大事な仕事だということになるわけです。

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決断で生じる一切の矛盾を背負うトップの心得

――リーダーが適切な判断を下すには、どんな要素が大切なのでしょうか?

難しく、かつ重要なのはアジェンダ設定力と適時性の2つです。

まずアジェンダ設定から言うと、破壊的イノベーションが起こり「この事業はなくなるかもしれないとか、このビジネスモデルは消えてしまうかもしれない」という時に、意思決定で妥協してはいけません。

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というのも意思決定の際、組織的には妥協への誘惑や皆の顔を立てる誘惑が働くものだからです。そのほうが組織はまとまりやすいので、ともすると「あれもこれも全部」になってしまう。だから、会社が潰れるとかビジネスモデルが立ち行かなくなるといった会社の危機には、あれかこれかで選別的に意思決定をしなければいけません。

にもかかわらずアジェンダ設定を、たいていの日本の会社は間違えています。「あれもこれも」ではなく「あれかこれか」が大切だという指示は、トップにしか出せません。現場の人では無理です。はっきり言って、これは合理性の問題であり、モチベーションや組織の士気といった次元の話ではありません。

もう1つ、適時性の問題ですが、これは、その意思決定をいつ行うかということです。

たとえば、「携帯電話のビジネスモデルが大きく変わると俺は分かっていた」とか「これからはファブレスの時代になると分かっていた」と、皆があとからよく言います。

ではなぜ「その時点で意思決定しなかったのか」ということが問題なのです。

そこで重要になるのはリーダーの政治力です。

政治力で最も大切なのは、人間に対する洞察力です。たとえば「その事業に携わる人が誰も不幸せになっていないし、事業の売上が対前年度比で伸びている、利益も年間2兆円出ている」というように現在の業績は順調だとしましょう。ただ、長期的に見ると、その事業の今のビジネスモデルは長く持たないということがわかるケースがあります。

そこでリーダーはどう決断すればいいのか。

その典型が自動車部品分野です。今、自動車産業では大きな構造変革が起きていて、電動化が急速に進んでいます。それと軌を一にして、GAFAなどの世界的なIT企業も、自動車分野にものすごい勢いで参入しているのです。

ですから売上高1000億、2000億円規模の日本の自動車部品メーカーが生き残るのは非常に難しいのです。そのため、自動車産業が大きく変わるという見方から、自動車部品メーカーが注目されているわけですが、今まさに自動車部品メーカーの再編が始まろうとしています。

そういう破壊的イノベーションが始まっている中で、仮にある企業の自動車部品事業の売上高が対前年比で伸びていて、利益が1億円の黒字だったとすれば、それは僕から見たらまさに売り時で、今が事業徹底の最後のチャンスだということになります。

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黒字のうちに撤退すれば、M&Aを行っても高い事業価値で買ってもらえるのはもちろん、黒字ですからリストラの必要もありません。

逆に、このまま5年10年引っ張って完全競争状態になり、負け組になって赤字が何年も続き、そこから撤退したらどうなりますか?

よほど運が良くなければM&Aで事業を売却できないし、工場を閉めて人員をリストラしなければならなくなります。

ですが現実問題として、日本の企業組織の中で、前年比で売上が伸びている黒字事業を売却できるでしょうか? 

皆さん、自分の会社で考えてみてください。たぶんその事業部門から、「この部門をデンソーに売ったらどうか」という声は絶対に上がってきません。

ということは、その段階で事業売却の意思決定を行うリーダーは、社内で相当力を持っているか、ある種の政治力を持っていなければならない、ということになります。

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冨山和彦氏・中西宏明氏 共著『

*第2回は