1/3

潮目が変わった転職事情

ーーいま、企業の経営環境や個人のキャリアを取り巻く状況が「VUCA(ブーカ)」と言われるように、先が見えない時代に突入していると言われています。キャリアの専門家のお二人は、この流れをどのように捉えていますか?

VUCA……Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)という4つのキーワードの頭文字から取った言葉_P1A3402

徳谷キャリア形成については、一つの企業に勤め上げることが良しとされていた時代がありました。特に転職活動については、密室で人材エージェントさんに相談するなど、どこか後ろめたい気持ちを持つ人も多かった。もちろん、会社の人に相談するわけにもいきませんでした。

つまり、個人レベルで見ると、受け身、かつ狭い視点から場当たり的にキャリアを形成しているケースが実際には多くあったんです。ただ、最近は外の仲間を巻き込みながら自発的にキャリアを考える方が圧倒的に増えています。

ある種「与えられていた」とも言える個人のキャリアが、いまは自ら投資をしながら「創り上げていくようなもの」に変化しています。

森本私もキャリアの世界で大きな変化を感じています。一番象徴的なのが、キャリア本のコーナーが以前と比べてものすごく大きくなってきていることです。

私がキャリア論をテーマに本を書こうと思ったのが2009年ですが、そのときには世の中にそこまでキャリア本はなかった。でも、今は「転職」とか「副業」といったようなタイトルの本が溢れていますよね。

つまり、誰もが「この職場は、自分にとって本当に最適なのか」と悩んでいる時代なのかもしれません。

_P1A3466

そもそも現代はキャリアの三種の神器と言われた「終身雇用、年功序列、企業内組合」が崩れてきていると言えます。

昔は組織から言われていることを、いわば滅私奉公でやっていれば定年まで会社に面倒を見てもらえました。しかし、今は自分のキャリア開発は自己責任で作っていかなければならない。

そんな時代だからこそ、常に自分のキャリアを考えなければならないのです。

徳谷でも、自分で自分のキャリアを作っていくことはある種、当たり前のことですよね。日本だけが特異な環境だったと言っていいと思います。

私は仕事で海外によく行くのですが、みんな自分自身で「どう自分の専門性・価値を高めていくか」を当たり前に考えている。

その専門性が自分のその後の仕事の機会や生活に直結しますし、日本ほど人手不足ではないので、個々の価値が高くない限り組織から守ってもらえません。そもそも守ってもらうという感覚があるのは日本だけです。欧米ではこの傾向はもともと強かったですが、日本でもこの流れは不可逆だと思います。

_P1A3455

実は、先月もシリコンバレーに長らくいたのですが、今年のスタンフォードのMBA卒業生たちと話していても、Googleは今やスーパーマチュアでワークライフバランス重視の人向け、Facebookでさえも、だいぶマチュアで大手志向の人が就職先として視野に入れる企業群となり、人気が変わってきています。

チャレンジしたい人は、自分の専門性を見据えた起業や、あえて上場前の少人数のスタートアップを選択することが多い。このあたりは、根本的な違いを感じますよね。

2/3

転職に成功するエクゼクティブのタイプ

ーー森本さんはずっと、エグゼクティブ専門のエージェントとして活動されてきました。終身雇用が当たり前だった昔は、エクゼクティブのヘッドハンティングは今よりずっと難しかったかと思います。

森本そうですね、かつては連絡手段が電話しかない時代もあり、そのときは本人に行き着くまでものすごくハードルがありました。だからこそ手紙もよく書いたのですが、それも本人に読んでもらえる確率は100分の1ぐらいです。

でもいまは、LinkedInやFacebookなどで個人が持つ人脈のデータベースが開放されましたよね。誰かをたどれば、必ず会える時代になりました。

そうやってアプローチしてみると、みなさん「自分のキャリアを第三者に見てもらいたい」「自分のキャリアは客観的に見てどれくらいのバリューがあるかを知りたい」「自分の給料は妥当なのかを知りたい」という欲求をお持ちなんです。

_P1A3488

徳谷そうですよね。エッグフォワードも、という転職支援プラットフォームでエグゼクティブやタレント候補のキャリア選択支援をしていますが、ここ1年でも非常にニーズが強まっています。中立的なキャリアの相談をしたり、自己を客観視出来る機会がとても強く求められるようになったと感じます。

ーーそのような環境下で、エクゼクティブで転職に成功する人はどのようなタイプが多いのでしょうか。

徳谷条件は3つあります。1つ目は、視点が外に向いていることです。自分の待遇や自己の満足だけではなく、対外的に何を為したいのか志があり、パーソナルミッションが外に向いていること。「ソーシャルバリュー主義」が強いとも言います。自己保身が強いだけの人は、エグゼクティブにはなりえません。

次は、バックグラウンドの全く異なる人を、内発的動機に基づき動かす力を持っていることです。プレイヤーとして優秀なだけでは、転職先で必ずしも価値を出すことができません。立場や権力からではなく、異なる価値観の人材を理解し、何のためにそこを目指すのかという「目的感」と紐づけられることです。

そして3つ目は、やはり「非連続な変化」に自発的意志を持って挑戦できることですね。そういう人は結果として、キャリアの変化を積みながら、多様な専門性を掛け合わせて身に着けていきます。

森本そのとおりですね。

3/3

CxOになるために必要なキャリア

森本私は、ずっと同じ会社に勤めているからといって転職がうまくいかないことはまったくないと思います。ただ、エクゼクティブで転職に成功する人は、同じ会社の中であったとしても、キャリアの変化度が大きいケースが多いんです。 たとえば、部署異動、地方転勤、海外赴任などもそうですし、子会社やM&Aをした会社のマネジメントをしていると、よりキャリアの変化が大きいと言えます。要は、今まで使っていた筋肉とは別の筋肉を使わないといけない場面にどれだけ遭遇したかが大事なわけです。

_P1A3565

徳谷全く同感です。私はその「今まで使っていた筋肉とは別の筋肉を使う」経験を積むことをクリエイティブジャンプと言っています。変化に適応する力というよりは、変化を創り出す力のイメージです。

自ら変化を創り出し、それを周りに波及させていくような経験をしている人は強いですよね。

森本先程「M&Aをした会社のマネジメント」の話をしましたが、特に救済型のM&Aで救済される側の会社に行く場合は、プライドが邪魔してそのことを嫌がる人が多い。そんなときに転職相談にいらっしゃる方が多いのですが、そんな方には「まずは目の前の業務をやってください、それにはものすごく価値があります」とお伝えします。

子会社の場合は、今まで使っていたリソースが半分になったり、予算そのものがなくなるみたいなこともあります。その中で、どうやってパフォーマンスを上げていくかを考えることが大事なわけです。もしそれが成功したら、その人にとっての新たなキャリアとなりますから。

また、救済型のM&Aをされた会社は、総じてメンバーのモチベーションも低い。そんな中でいかにメンバーのモチベーションを上げるか。そういう難易度の高い仕事をやっている人は、ものすごく価値が高いのです。

逆にいうと、実は、私の前職であるリクルートのように社員のモチベーションが高い組織をマネジメントすることは、それほど難しくありません。

_P1A3418

そういう会社ではビジョンとゴールを設定してあげれば社員が自走できてしまうのですが、そうではない組織のマネジメントができるかどうかが、CxOへの道とも言えるかもしれません。

徳谷まさにその通りだと思います。大きい組織の場合は、ある程度はリソースも潤沢にあり、前提条件がある中で「80点以上取ってください、赤点を取らないでください」というケースが多い。

しかしながら、起業をするにしても、スタートアップの経営をするにしても、実際はリソースがまったくないところから始まります。ヒト・モノ・カネは常に「ないないづくし」です。そんな中でも、最終的に成果を出さないといけない。

そのためには、どうすれば所与の条件に囚われず、説明責任を果たしつつ、自分自身で動いてリソースを調達し、レバレッジを利かせて結果を出せるのか——CxOになるためにはその設計から入る必要があるのです。