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「明るい縮小戦略」こそ令和の希望

――著書の『平成の教訓』にある「明るい縮小戦略」とはどんな戦略でしょうか。

竹中 日本の人口はこれからどんどん減っていきます。少なくとも出生率はもう少し上昇してほしいと思いますが、人口減少はもう止められません。

人口を維持するには、合計特殊出生率が2.07や2.08というように、2をやや上回る必要がありますが、日本で合計特殊出生率が2を下回ったのは1970年代初頭で、すでに約45年前からこうなることはわかっていたわけです。

東京の人口はまだ増えていますが、私の故郷である和歌山県の人口は、2030年にかけて2割近く減少します。そうなると、非常に残念ではありますが、今ある村や集落が維持できなくなるのは明らかです。

今の国土政策では、今この場所に住んでいる人には、そこに住み続ける権利があることを前提にして、国や県がインフラ整備や行政サービスを行っていますが、2割も人口が減ったら、それらを維持するのは無理でしょう。

少人数の人たちのためにインフラを提供するのは難しいので、たとえば「申し訳ないですが、和歌山県内の郡部に住んでいる人は和歌山市、あるいは大阪市に移って下さい。そのための費用は国が持ちます。働く場所もきちんと用意します」という政策を打たざるを得ないのです。

悲しい面もありますが、そうすることで、次の世代が新たに職業機会を得られるようにもなります。村が自然に潰れていくのに任せるのではなく、プラスになるようなことをもっと積極的にやっていきましょう、という趣旨で書きました。

――たとえば両親が田舎に住んでいる人は、両親を自分の家に呼び寄せ、都会で一緒に暮らすということを、どんどんやっていくべきなのでしょうか。

実際にそういうことも起きています。これは和歌山市の例ですが、日赤病院の周りのマンションだけ価格が上昇しています。つまり、医療機関のない郡部から、そういう場所に人が集まってきているわけですね。

こうした「呼び寄せ」も必要ですが、私は地方創生をどうしたらいいのかという問題のほうがもっと大切だと思います。地方が全部なくなってしまっては困るわけですから。

その意味で、郡部の過疎の地域を地方の中核都市などに集約させようというのが、先の「明るい縮小戦略」の典型です。

ところが、若い人たちを地方に呼び込もうという話は数多くありますが、それはなかなか一筋縄にはいきません。若い人たちは地方にあまり住みたいと思っていないからです。

ですからむしろ、介護が必要な団塊の世代以上の人が、介護費用の安い地方に積極的に移っていくことが、地方創生の決め手になるはずです。

そこで1つ問題になるのは、社会保障費用が地方の負担になることです。これについては、地方自治体の社会保障費負担を政府が肩代わりすることが、唯一の地方創生だと思います。

これは逆転の発想ですが、令和の時代を語る時、これから10年後、20年後を見据え「どうしてもやらなければならない政策は何か」を考えることが、私たちにとって重要です。

反対意見も多いでしょうが、その1つとして、私は「東京の独立」が挙げられると思います。

独立というと聞こえが悪いですが、今は東京都も和歌山県も奈良県も同じ地方自治法の枠組みの中にあります。ところが本当に20年後や30年後を考えると、人口が60万人や50万人に減っていく県と、1000万人の人口を有する東京都を、同じ地方自治法の枠組みで扱うことは非常に難しくなるでしょう。

ですから、東京都をアメリカのワシントンD.C.のような特別区として、国の直轄にし、東京都知事を大臣ポストにする。こういうことが、令和における主要な議論の1つにならなければいけないと思います。

_P1A1273__1_竹中平蔵 1951年和歌山県生まれ。一橋大学経済学部卒業。博士(経済学)。 ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て、2001年小泉内閣で経済財政政策担当大臣を皮切りに、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣兼務、総務大臣を歴任。2006年よりアカデミーヒルズ理事長、現在東洋大学教授、慶應義塾大学名誉教授。 ほか㈱パソナグループ取締役会長、オリックス㈱社外取締役、SBIホールディングス㈱社外取締役などを兼務。
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失われた競争力をどう取り戻すのか

――令和には、企業セクターがもっと元気になるのを期待したいところです。最近、コーポレートガバナンス改革も進んでいますが、日本企業が復活するための制度を含めた土壌はもうできあがっているのでしょうか?

私はまだ不十分だと思います。2015年6月から、「コーポレートガバナンスコード」(実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則をまとめたもの)が日本でも適用されました。

ところが、コーポレートガバナンスコードやコーポレートガバナンスの強化について、今から6年前に産業競争力会議で初めて発言した時、「経営のことがわからないのに口を出すな」と猛烈な批判を浴びました。

結局、それでもやらざるを得なくなってコーポレートガバナンスコードというものができたのです。その際、徹底的な反対やさまざまな横やりが入り、取締役会に独立した社外取締役を2名入れることが、努力義務として定められました。

国によっては、取締役の半数以上を独立した社外取締役とすることを義務付けているにもかかわらずです。たしかに以前よりはよくなりましたが、国際的に見ると、コーポレートガバナンスが十分に強化されたとはとても言えません。

さらに、コーポレートガバナンスを構築するための努力義務を示すガイドラインである「コンプライ・オア・エクスプレイン」も採用されました。

これはわかりやすく言えば、「このガイドライン通りにやってくださいね。でも、やらない自由はあります。その場合は、なぜやらないのかを説明して下さい」ということなのですが、これがとても効いたのです。みんな説明するのが嫌ですから。

社外取締役がどの程度機能しているのかと言うと、形式的には、社外取締役が大企業の多くに入ったことは事実です。ところが、社外取締役も加わって次の社長を選ぶ「指名委員会」が際立った独自性を持ち、10億円ぐらいの予算を注ぎ込んでいる企業があるのかと言うと、おそらくありません。

その意味では、まだ魂がこもっていないと思います。

――令和の日本は、何で食べていったらいいのでしょうか?

それもよく聞く質問ですが、たとえば次のように考えたらいいですね。

「トヨタのライバル企業はどこですか?」――「それはグーグルです」

「パナソニックのライバル企業はどこですか?」――「それはグーグルです」

「リクシルのライバルはどこですか?」――「それはグーグルです」

この中に答えがありますよね。

つまり、今や企業を製造業やIT産業、サービス産業といった従来の産業の概念で語ることはできなくなっているのです。したがって、企業それぞれがビッグデータや人工知能、ブロックチェーンを活用して、いかに競争力を高めていくかが重要であり、どの産業が強くなるかというような見方そのものに意味がなくなっています。

そういう中で重要になってくるのが、「スマート」「サステナブル」、「インクルーシブ」という3つのキーワードです。

「スマート」は最新技術を用いることで、「サステナブル」は本当の意味での持続可能性、すなわち社内的にも社外的にも、経済的にも持続可能であること。そして「インクルーシブ」は、誰も取り残される人がなく全員の能力が発揮できる経営を行うこと。

そういうことができる企業が、業界に関わりなく力をつけていくのです

でもそこで、次に絶対に課題になるのが教育です。教育の劣化が、中長期的に見た日本の最大の課題だと思いますね。

たとえば世界の大学ランキング(イギリスの世界的な大学評価機関クアクアレリ・シモンズが実施)では、東京大学は40位台(最新のランキングでは22位)。

ハーバード大学の元学長のヘンリー・ロソフスキーは「東京大学は日本では良い大学だと思われているが、ハーバード大学から見ると『東京にある大学』という以上の意味はない」と言っています。今や東京大学はアジアでも多くの大学に抜かれているわけで、これから大学をどうするのかというのは大きな問題です。

それについて、私には案があります。「東大民営化」です。

民営化と言うと誤解する人がいるかもしれませんが、今国立大学法人には運営交付金という名の補助金が出ていて、文部科学省の役人が「東大だからいくら」「京大だからいくら」「阪大だからいくら」と、鉛筆を舐めながら金額を決めています。

もちろん国が大学にお金を出すことは必要で、アメリカはもちろんどこの国でもやっていますが、役人の裁量ではなく競争的研究資金で配分されているのが普通です。

要は、良いプロジェクトにはお金を出しますが、良くないプロジェクトには出しませんということですから、競争的研究資金をもらえない大学が出てくるかもしれません。でもこれをやれば、東大にはおそらく今よりもっと多くの資金が集まります。

加えて、寄付税制の拡充も必要ですね。

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「良識のアンカー」を取り戻せ

――「メディアの劣化」も1つの大きな平成の教訓だと思います。NHKのネット同時配信を可能にする改正放送法が成立しましたが、これは竹中さんが総務大臣を務めていた頃の「通信と放送に関する懇親会」(竹中懇)で議論されていたものです。結局、放送法の改正が13年遅れましたが、もっと早く実施されていたら違う展開になっていたでしょう。

そう思います。あの時は最先端の研究に携わっている多数の専門家に入っていただき、今から思えばごく当たり前なことを話していたわけです。通信と放送の融合、要するに、電波でしかできなかった放送がインターネットでも可能になっているのです。

しかも最近の技術の発達で、放送に必要な電波の周波数帯域が狭まり、電波に空きが生じてきたので、オークションを行って電波の効率的な利用を推進すべきだ思います。

皆さんご存知ですか? 日本は、電波オークションを全く採用していない唯一の先進国です。日本でもようやく電波オークションができそうな状況になってきましたが、この部分でも良い意味での競争原理が働くことを期待したいのです。

もう1つ、やはりNHKの存在は非常に大きくて、私はNHKは「エバー・グローイング・インダストリー」だとよく言っています。

実際、NHKはラジオ2波に加え、NHK総合とEテレ(旧・NHK教育)の地上波2波、さらにBSとBS2も持っていて、どんどん大きくなっているんです。

それでいて、過去に放送した番組の再放送も行っているわけです。それをもっと民間に開放してもらいたいと考え、あの時、1970年代初にアメリカで成立した「フィンシン法」の日本版も、われわれは提出したんですよね。NHKの改革はやはり必要です。

――メディアが変われば政治が変わるように、政治が変わればメディアが変わると思います。そこに期待感もありますが、竹中さんはどう考えますか?

今、日本のほとんどの国会議員はSNS情報発信していますから、すでに変わり始めているということでしょう。今、ニュースメディアの人たちはトランプ米大統領のTwitterばかり見ていると言われていますが、ご指摘のように、メディアは政治を変える力を持っていると思いますね。

同時に、新聞やテレビの役割が依然として重要だと考えられるのは、SNSには良い情報もある反面、嘘の情報もたくさんあるからです。

たとえばある情報によると、私は小泉政権で金融担当大臣を務めた際、りそな銀行に公的資金を注入したおかげでアメリカから2兆円をもらったことになっています。びっくりしますよね。

こうした嘘が平気でまかり通っていて、そういう記事ばかり読んでいると、本当にそう思い込む人も出てくるわけです。

だからこそ、メディアにおける良心や良識が非常に重要で、今までは個別の記事にはおかしなものはあっても、朝日新聞を含む主要新聞の社説や「NHKスペシャル」などの報道番組は、それなりにきちんとしていました。

それらがメディアにおける「良識のアンカー」、すなわち良識を支える「錨」になっていたのですが、今ではそういうものがなくなってしまいましたね。