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非認知能力をどう伸ばすか

学習指導要領が改訂され、教育の現場では「生きる力」を育むため、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業の改善を迫られている。

保育所保育指針・幼稚園教育要領も改訂され、今春から新要領に基づいた保育・指導が始まった。IQや学力テストでは測れない「目標に向かってやり抜く力、忍耐力、協調性」といった「非認知能力」を伸ばすことが新たな指導目標に据えられたが、戸惑う保育者も少なくない。

「非認知能力を伸ばせと言われても、先生自身がその概念を習ってきていないわけで、どう伸ばせばいいのかわからなくて当然です。私はそれらの必要性をずっと主張してきましたが、データやエビデンスがないとなかなか世の中は動かない。やっと時代が追いついたって感じですね」

takahama

そう話すのは、花まる学習会代表の高濱正伸氏だ。25年以上も前から「思考力・判断力・表現力等を含む生きる力」を育てる教育に取り組んできた。非認知能力こそが「生きる力」につながり、学力の土台になると説明する。

その高濱氏が、教育分野の必読書として選んだ10冊のうち、まず概論として薦めるのが『私たちは子どもに何ができるのか』だ。非認知能力の育成には環境が大切であると説き、中でも親という人的環境の重要性について切り込んでいる。保護者の啓蒙活動にも力を入れている高濱氏は、「学校や塾での教育だけでは子どもは伸びない。親を変えていかなければ」と話す。

「私たちの時代はこうだった」と自分の狭い経験だけで教育を語りたがる人に、ぜひ読んでほしいと薦めるのは、『知ってるつもり』

「世の中、何もわかっていないまま議論されることが少なくない。教育もしかり。いかに〝知ってるつもり〞になっているかを突きつけられます」

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数学教育こそ、AI時代に日本が生き残る道

算数オリンピック委員会理事も務める高濱氏は、「日本は数理的思考力の高さが際立った国。STEM(Science,Technology, Engineeringand Mathematics、科学・技術・工学・数学分野)教育のM(数学)に力を入れるべき」と主張する。

「江戸時代には算学で思考することを満喫する集団がいたんです。誰もが数を数えられるというのは財産で、その強みを生かさない手はない。土台があるのだから、そこを伸ばすのがAI 時代に我が国が生き残る道です」

数理的思考力を伸ばす書として、『数学する身体』『オイラーの贈物』『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の3冊を挙げる。

高濱正伸氏

「中でも『オイラーの贈物』は数式ばかりで、かなりきついかもしれないですが、これぐらいは読んでほしいですね」

さらに教育者を目指す人に推奨するのは、『修身教授録』『エミール』の2冊。いずれも版を重ねて読み継がれてきた名著である。

『修身教授録』は、教師が優秀かつ尊敬される存在であった時代に、哲学家でもあった森信三が教えた修身の講義録です。人生論としても読めて、教育関係者でなくても学びがある。『エミール』は、今の時代に子育てで問題視されていることが、約200年も前にほぼ指摘されていて、驚きますよ」

とはいえ昔と今では状況が異なる。現代の教育現場における課題や最新の話題を取り上げた本として、『学校は行かなくてもいい』を挙げる。

高濱正伸氏

「感性が優れていて突出した子が、今の学校の枠組みではその良さを発揮できないこともある。不登校を経て活躍している人たちのリアルな話が詰まっていて、教育界に一石を投じる本です」

では際立ったところのない普通の子が、これからの時代を生き抜くためには、どう育てるべきか。その答えが見つかるのが『藤原和博の必ず食える1%の人になる方法』だと言う。

「100人に1人の人になれば食いっぱぐれない。100人に1人の技を3つ持て、と具体策を示してくれる」

最後の1冊は、一見教育とは関係なさそうな『子どもが生まれても夫を憎まずにすむ方法』

「子どもへの責任感から教育に取り組むのは圧倒的に母親の方です。でも多くの父親は母親に無理解。母親のストレスと苛立ちが募り、夫婦の関係が悪化していく。教育においては親という環境が最も重要です。夫婦関係が良好で家庭が安定していなければ、いくら素晴らしい教育を施しても効果は出にくい。夫婦の溝が深くなる前に、特に男性が読むべき」

と強調する。

高濱正伸氏

選ばれた10冊は、子を持つ親にはもちろん、自身の生きる力を高めるためにも役立つだろう。

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Book List

[概論]

ポール・タフ/著 高山真由美/訳 英治出版

概論教育に携わるなら押さえておきたい1冊。ジャーナリストの視点で、現代的な課題が取り上げられ、「非認知能力」をどう育てるのか、最新の研究や先進事例がまとめられている。「教育においては、人的環境としての親が最重要ファクターであることを一番のテーマとしているところも必読ポイント」。

スティーブン・スローマン、フィリップ・ファーンバック/著 土方奈美/訳 早川書房

私たちは自分が受けた教育や我が子の情報だけで教育を語りがち。何かを語ろうとするときに、いかに何もわからないまま議論しているかを知らしめ、思考の方法を認知科学者が教えてくれる。「わかったつもりにならないと前に進めないという人間の思考と行動の特性についても触れられている」。

[数学]

  森田真生/著 新潮社

小林秀雄賞を最年少で受賞した著者は、30代前半の研究者。「言葉のセンスが良く、数学の楽しさや面白さが伝わってくる」。数学を「身体的な営み」として捉え、指で数えるところから始まった計算の道具としての数学が、AI 時代の到来によって「何であり得るか」など、哲学的に考察している。

  吉田 武/著 筑摩書房

数学の独習書を手がけるサイエンスライターが数学の醍醐味を素人に向けて解説。虚数、指数関数、三角関数といった数学の基礎が高度な「オイラーの公式」へとつながっていく。「数理的思考力を伸ばしたいなら、これくらいは読んでほしい。同じ著者の名著『虛数の情緒』も必読です」。

  新井紀子/著 東洋経済新報社

著者は、東大合格を目指したAI「東ロボくん」の開発者。最近の学生の読解力のなさは、教育現場の大きな課題であり、数理的思考力の育成以前の問題だと指摘。「AIをむやみに恐れるより、もっと足元を見ないといけない。子どもたちは算数の問題を解く前に、文章が読めていないんです」。

[教育現場]

  森 信三/著 到知出版社

「国民教育の師父」と謳われた哲学者で教育家の著者が、戦前、大阪府天王寺師範学校(現・大阪教育大学)で、教師を目指す学生に向けて行った「修身」の講義をまとめた1冊。誇り高き教育家の人生論でもあり、教育界のみならず企業の経営トップで愛読書として挙げる人も多い。

  ルソー/著 今野一雄/訳 岩波書店 

現代の教育に通じる問題点を語り尽くしている古典。例えば、買い与えや過保護の悪影響について。「子どもをダメにしたければ、欲しがるものをすべて与えよ、といった箴言が満載です。過保護の残酷さも見抜いている。子どもにはケガしない程度の冒険をさせないといけない」。

小幡和輝/著 健康ジャーナル社

地方創生のニューリーダーである著者が約10年間の不登校を経て高3で起業した自身の体験談と、現在、社会で活躍している不登校経験者の体験談を収録。「正しい不登校」なら、社会人として活躍できる道も開けることが提示され、ネガティブに語られやすい不登校問題の捉え方が変わる。

  藤原和博/著 東洋経済新報社

リクルートから公立中学の校長へ転身し、複数のキャリアを築く著者が、普通の子が生き抜くための方法を示す。100人に1人のレアな人間になれば食べていける。100人に1人の技を3つ持てば、100万人に1人にも成り得ると説く。「複数の強みを掛け合わせることが重要なんです」。

ジャンシー・ダン/著 村井理子/訳 太田出版

子どもの最大の環境である「親」が陥りやすい問題を鋭く考察する1冊。「子どもの問題にずっと取り組んできましたが、親を変えないと話にならないなというところに行き着いた。理解し合える夫婦関係を築くために、特に男性は結婚と同時に読んでほしい」。

*本記事は「NewsPicks Magazine Vol.2」からの転載です。