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心のバリアフリー、日本は発展途上

佐々木アクセシビリティの話が出ましたが、都市のインフラや個人のマインドセットでは、どのような点が改善できると思いますか。

栗栖障害のある人が感じるバリアは、インフラなどハード面、精神的なソフト面、情報面……とさまざまな種類がありますが、それらを一番簡単にクリアする方法はコミュニケーションです。

コミュニケーションは誰でもできることだし、資格もいらない。皆さんも今日のプログラムで感じたと思いますが、コミュニケーションを取らなければ、バリアを乗り越えることはできないんです。

____P1A6689栗栖良依/NPO法人スローレーベル理事長

佐々木健常者・障害者に関係なく、困っている人がいたら助けるのは当たり前ですからね。

栗栖それでも障害のある人は「何か配慮することはありますか」と聞かれたとき、「ここまでお願いするのは申し訳ないかな」と、すべて言えないことも多いんです。

一方で、施設やイベントの主催者側も「これ以上聞くと失礼かな」「プライバシーの侵害かな」と突っ込んで聞き出しきれない。お互いに遠慮してしまうんですね。

そこで私たちはスペシャリストとして、両者を行ったり来たりして必要な情報を媒介しますが、そういう特別な役割が必要なくなることを目指しています。

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佐々木バリアフリーの観点でいうと、日本はここ数年で、良いほうに変わってきたと感じますか。

栗栖東京オリンピック・パラリンピックに向けて変わると期待していたのですが、良さを感じるより、がっかりすることのほうが多いですね。

佐々木具体的にはどんなことですか。

栗栖私は右足が動かないのですが、杖をついて電車に乗り、優先座席の前に立っても、席を譲ってもらえないことはザラです。

また2020年に向け、行政は障害者がスポーツやアート活動に参加するためのさまざまなプロモーションを行っていますが、それを見てスポーツ施設に行った人が、利用を断られることも少なくありません。

iStock-635903112-Rich_LeggPhoto by i-Stock/Rich Legg

しかし施設も、差別的な意図で断るのではありません。今まで障害のある人を受け入れてこなかったので、何かあったときに責任が取れないからと、断ってしまうのです。

田中そういう日本の「過剰コンプラ」は、本当に危ういですね。

栗栖スポーツ・文化施設、飲食店など、多くの場所でまだまだだと感じます。せっかく2020年を機に、街へ出ようと勇気を振り絞った人たちの心を、折らないでほしいのです。

何もお金をかけてスロープをつけなくても、みんなで車いすを持ち上げるなど、コミュニケーションで解決できることも多いはず。

日本社会は「予算がないから施設をバリアフリー化できない、じゃあやめておこう」となりがちですが、その点は海外のほうがラフですね。

田中よく日本はバリアフリー後進国といわれますが、ハード面はかなり進んでいると思います。

____P1A6714田中 慎一/株式会社インテグリティ 代表取締役

2024年のオリンピック開催地・パリは対照的で、多くの駅や建物でエレベーターやエスカレーターがありません。でも栗栖さんのおっしゃるように、車いすの人がいると自然と周りの人が集まり、当たり前のように「せーの」と持ち上げる。

「心のバリアフリー」は、日本より海外のほうが進んでいるでしょうね。

でも、電車で席を譲らないというのは、「いいです」と断られるのが恥ずかしくて言えない人が多いのではないでしょうか。

奥井本当にそうです。先日電車に乗っていたら、前にいた女性のリュックサックのファスナーが開いていたので「閉めましょうか」と声をかけたんです。そしたら「いいです」と言われてしまい、気分が萎えてしまいました。

一概には言えないですけど、やっぱり東京は他人とのコミュニケーションが少ないんですかね……。

____P1A6796奥井奈々/NewsPicksプロアナ

佐々木東京と地方では、そうしたコミュニケーションの温度に違いはあるのでしょうか。

栗栖大阪に行くと、障害のある人が東京より元気に感じられますし、駅でも車いすの人をたくさん見るので、地域性はあると思います。地方都市はまたさらに変わるかもしれません。

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突然、障害者になって

佐々木では、会場の皆さんから質問を受けましょう。

参加者2プログラムの最後に、佐々木さんと奥井さんは高いところから後ろ向きに倒れるワーク(イニシエーション)をされましたね。勇気がいる体験だったと思うのですが、感想を聞かせてください。

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奥井皆さん全員が支えてくれているという安心感があったので、怖さはさほど感じませんでした。

佐々木私も大丈夫でした。障害のある方の不安に比べると、大したことじゃないだろうと思って。障害をもつ人と同レベルの不安を体験するのは無理かもしれませんが、少しでも近い体験をすると、マインドも変わり得るのではないかと感じました。

栗栖さんも、初めから障害があったわけではないですよね。その前後で、見える景色や気持ちは大きく変わったんじゃないですか。

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栗栖はい。障害をもって、生き方も人生観も価値観も、本当に変わりました。

私は2010年、骨肉腫という病気になり、その影響で右下肢機能が失われました。病気になる前は人生の明確な目標があり、その実現に向けて頑張る生き方でしたが、この病気は5年生存率が低く、再発・転移の可能性も高いといわれました。

それからは、今この瞬間をいかに楽しく生きるかという価値観になりましたね。

それまで、東京は世界で一番便利な街だと思っていましたが、障害をもってからは、なんて不便な街なんだろう、優しくないんだろうと感じるくらい、印象が一変しました(苦笑)。

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働き盛りの人が脳卒中で麻痺になることもありますし、誰にでも起こり得るんですが、やはり起きてみないと実感できないですからね。

佐々木障害でなくても、高齢者になって体に自由がきかなくなると、似たような状況になりますね。寿命が長くなるほどその確率も高くなりますから、他人事ではないと肝に銘じたいです。

参加者3私は10年ほど前、勤務先で特例子会社(事業主が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社)を立ち上げる仕事に携わりました。そのため、多様性の大切さはよくわかります。

ただ、企業活動で商品を営業・販売するとなると、ピラミッド型の組織でスピーディーに進めるほうが、効率的で利益も大きいと思うんです。多様性というと言葉はきれいですが、実現するのは相当大変ではないかと感じるのですが。

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栗栖「多様性のある組織にしないといけない」と考えると、これまでと同じで同質性の高い社会になってしまいます。そうではなく、働き方や組織のあり方が多様であればいいんです。ピラミッド型組織が適する場面や職種は、それでいいと思います。

重要なのは、選択肢が多様であること。今はまだ、障害のある人にとって選択肢が少なすぎるので、それが広げたいという意味での「多様性」です。

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福祉の充実が健常者・障害者を「分けてしまう」?

佐々木今日の会場は中学校の体育館ですが、子どもの教育の中で、障害のある友達と接する機会は、以前より多くなっているのですか。

栗栖私はその専門ではないので正確な数字は把握していませんが、感覚としては、むしろ減っているように感じます。

佐々木そうなんですか、意外です。

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栗栖私が子どもの頃は、障害のある子も同じ教室にいたし、発達障害が問題視されることも今ほどありませんでした。しかし今は、障害があると特別支援学校や特別支援学級に通うので、障害のある子とない子が分けられてしまっています。

佐々木たしかに、そうですね。

栗栖早期に発見してその子に合った指導をしたほうが、(当事者も他の子どもも)互いにストレスなく過ごせるという考えなのでしょうね。

そして特別支援学級を選ぶと、その後はずっと「障害者」としての道を歩むことになる。卒業後の選択肢も大学や専門学校ではなく、どのレベルの障害者施設に行くか、となります。

「多様な人が生きやすい社会を」といいながら、教育や福祉の仕組みを手厚くするほど健常者と障害者が分けられてしまう現状が、すごく残念です。

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奥井前職がユニクロで、店舗に知的障害のあるスタッフがいたんですが、彼のシフトを見ると掃除やクモの巣取りなど、ユニクロと関係のないことばかり割り当てられていたんです。彼自身も、それにストレスを感じていました。

あるとき私が指示を出し、彼に売り場に出てもらうと、彼は一気に輝き出した。ジーンズをたたむのがめちゃくちゃ上手で、「そんな才能があったんだ」とみんな驚きました。

そのとき「障害者だからこの仕事」と枠にはめることの意味のなさを感じたんです。

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栗栖障害のあるなしに関係なく、得意なことと苦手なことがあるのは誰でも同じです。それを把握し、一人ひとりの個性を生かしてチームの目的を達成することが大事なのに、初めから「障害者だから」とラベリングすることでダイヤモンドの原石をたくさん捨てている気がして、すごくもったいない。

佐々木あらゆる常識を壊して、社会を再編集する必要がありますね。

栗栖常識なんて、日本を一歩出たら非常識になることも少なくありません。それなのに、日本社会は常識にとらわれすぎています。障害や多様性の分野に限らず、社会が変わるためには、常識を壊すことが第一歩だと思います。

佐々木明治維新や戦後でもそうですが、日本人は案外コロッと変わるので、壊して再編集した価値観に適応できる可能性もありそうです。

栗栖そういう意味でも、2020年は大きなチャンスです。世界中からやってくる、多様な人々にたくさん接して、良いほうにコロッと変わってほしいですね。私もそのために全力を注ぎます。

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