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ソーシャルサーカスとは

NewsPicksアカデミアは8月、との共催で、ソーシャルサーカスプログラム「ユックとリー 渦巻の世界」を実施した。

ソーシャルサーカスとは、地域課題を解決する手法として、世界各地で展開される参加型のプログラムだ。

貧困者や移民、障害のある人など、コミュニティで阻害されがちな人たちと一般参加者が一緒に体を動かし、言語・非言語を問わない多種多様なコミュニケーションをとることで、相手への想像力を養う。その中で、真の「多様性」を理解することを目的とする。

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今回のプログラムでは、「ガイド役」の一部を身体的・知能的障害をもった方々が担当。体験者としてNewsPicksアカデミア会員20名、プロピッカーの田中慎一氏、プロアナ(プロフェッショナル・アナウンサー)の奥井奈々氏、NewsPicks取締役の佐々木紀彦が参加した。

冒頭、アイマスクを付けるよう指示され、不安感とともに会場入りする参加者たち。アイマスクを取った瞬間、サーカス劇場を模した非現実的な空間を目の当たりにする。

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その後、ガイド役の指示のもと、「マイムマイム」のごとく円状に走ったり、ジャグリングや曲芸の体験を行ったりしながら、互いの距離感を近づけていく。

プログラムには随所に、「相手を信頼しなければ成立しない」ワークが盛り込まれている。

たとえば「いつも間にかあなたがわたし」というワークでは、ロープの輪を全員で持ち、胸の高さまで上げたうえで、ロープで体重を支えながら重心を斜め後ろに下げていく。全員が後ろに引っ張らないと、ロープはたわみ、バランスが崩れてしまう。

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また「てのひらの海に飛び込もう」というワークでは、2メートルほどの高さの台座から、後ろ向きに倒れこむ1人を、参加者全員でキャッチする。恐怖心を捨て、他の参加者の腕の中に躊躇なく飛び込めるかがが試される。

体験後、参加者からは「めったにできない体験ができた」「自分のエゴの無意味さに気付かされ、逆に学びを得た」などの感想が寄せられた。

本プログラムのディレクターを担当したのは、NPO法人スローレーベル代表の栗栖良依氏。

東京2020オリンピック・パラリンピック開閉会式の総合演出チームに起用され、話題を呼んだ栗栖氏だが、実は2010年に患った骨肉腫が原因で、右下肢機能全廃の障害を抱えている。

「障害者になって初めて、東京の街の不便さに気づいた」と語る栗栖氏。そのためプログラムは、健常者の立場と障害者の立場、どちらも体験した栗栖氏ならではの発信内容になっている。

同日、栗栖氏、田中氏、奥井アナによるトークセッションを開催。プログラムの感想を交えながら、多様性について、障害について、さまざまな議論が交わされた。

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コミュニケーションツールは言葉より「信頼」

佐々木第1部のソーシャルサーカス体験、お疲れさまでした。約90分と長時間で、中にはハードなワークもありましたが、皆さんのお顔をみると元気そうで、どこか晴れやかな感じがします。

栗栖さんは今回のプログラムのディレクターを務めましたが、どのような狙いを込めたのですか。

栗栖私たちスローレーベルはソーシャルサーカスのプログラムを多様な方を対象に日頃行っていますが、今回は新たな試みとして、ビジネスパーソンを対象に、通常とは少し趣向を変えたプログラムづくり(「ユックとリー 渦巻きの世界」)に挑戦しました。

サーカスのワークひとつひとつの目的やポイントなどはあまり詳しく解説をせずに、体験する方お一人お一人にそれぞれ感じてもらいたいという狙いがありました。

また私たちのチームは、メンバーのバックグラウンドが多様性に富んでいます。たとえば、周りで進行を見守っていた女性の1人は看護師の資格をもっていますし、プログラム指導をしていた金井ケイスケさんはサーカスアーティストです。

身体を動かしていたメンバーの中には、車いすの人も、聴覚に障害があって手話でコミュニケーションを取る人もいます。

障害の有無にかかわらず、それぞれ異なる特徴をもつ人のチームだからこそ作れる場、世界観がある。その世界観を、皆さんに感じてもらうのが大きな目的でした。

____P1A6774栗栖良依 /NPO法人スローレーベル理事長

佐々木田中さん、参加していかがでしたか。

田中参加者には障害のある方たちもいるということで、メンタルブロックを取り払うつもりで臨んだのですが、いざ始まるとそれを意識することもなく、いろんな動きが自由にできて純粋に楽しめました。

佐々木田中さんはトライアスロン選手でもあるので、体を動かすのが楽しそうでしたね。奥井さんはどうでしたか。

奥井ハードな動きもあったんですけど、心がほぐれたというか……なんだか温泉に入ったような気分です。

栗栖本番に向けたテストプレイとして、のべ100人もの人に練習相手になってもらいましたが、今日参加された皆さんが一番パワフルだったので驚いています。サーカスアーティストの金井さん、その点についてひと言いただけますか。

金井とくに驚いたのはロープワークです。円形に並んでロープをもち、バランスを保ちながら後ろに倒れるプログラムですが、誰かが手を離すとバランスが崩れ全員が転ぶリスクもあり、危険が伴います。

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このワークはお互いの体重を預けるので信頼関係が必要ですし、みんなが均等に体重をかけないと成しえないのですが、皆さんは思いきり後ろに倒れていた。

僕ですら、自分が参加者ならあそこまで体重をかけないと思うので(笑)、すごくいいチームだなと。

佐々木手をつなぐのではなく、ロープを使うのは意味があるんですか。

金井ロープを通すと、全員とコミュニケーションが取れるんです。「引っ張りすぎじゃない?」「私、もうちょっと握ってもいいかな」など、ロープから微妙な感覚が伝わってくる。手をつなぐと、逆に感覚が伝わりづらくなります。

____P1A6804金井ケイスケ/サーカスアーティスト

佐々木へえ、そうなんですね。ではここで、参加者のみなさんの感想も聞いてみたいと思います。いかがでしたか?

参加者1言葉を使わなくても、体の動きだけで互いに共感できることがわかり、とても新鮮でした。多様性ってこういうことなのかな、と心に響きました。

栗栖気づいていただき、うれしいです。コミュニケーションというと言語の問題だと考えがちですが、それ以外にも方法はたくさんあります。

車いすに乗っているハヅキちゃんは、話すことはできませんがボードを使ってコミュニケーションを取りますし、みんなそれぞれ、コミュニケーションのスタイルが違います。

ハイタッチだけでも気持ちが通じ合うことを体感できるように、意識的にプログラムを組んでいます。

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「互いに補い合うマネジメント」を

田中ソーシャルサーカスは、企業研修にも活用できそうだと感じました。企業のダイバーシティ推進や、チームワーク醸成に役立つと思うのですが。

栗栖そうしたニーズがあるのではないかと研究を重ねているのですが、何度か試験実施してわかったことがあります。同じ職場の人と参加すると、空気を読んでしまったり、ハイタッチをするのが恥ずかしかったりするんです。

いつも顔を合わせるメンバーに、普段とは違う自分の一面を見せるのに抵抗があるようで、部署の違う人を組んでもらうなど、企業研修ではまだ工夫が必要ですね。

田中赤の他人どうしのほうがスムーズに目標に向かえるとは、おもしろいですね。

____P1A6817田中 慎一/株式会社インテグリティ 代表取締役

栗栖実際に、今日もほとんどの方が初対面でした。

もう一つ、今日うまくいった要因があります。プログラムの進行を行う「ガイド」たちの存在です。

ガイドの中には障害のある人も多いのですが、 彼らは、私たちがこれまで行ってきたソーシャルサーカスのワークショップや創作に参加し育ってきた方たちです。今回は彼らが参加者ではなく「ガイド」となってプログラムをファシリテートすることに挑戦しました。

緊張して言葉が出なかったりするなど、スムーズな進行ということではありませんが、 ガイドが自由な動きをすることで、参加者の心の障壁が取り払われ、普段自分を解放できない人が、自分を出せたりするのです。

今、企業の障害者雇用が議論されますが、彼らにはこのように、周りの空気をやわらげ、誰かと誰かをつなぐ力があることを、企業の皆さんに知っていただきたいのです。

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田中日本の組織は同質性が高いですね。経済が右肩上がりのときはいいですが、経済が頭打ちになり、ロボットやAIで自動化が進むこれからの時代には、企業も個人も多様性に富み、クリエイティブであることが重視されます。

ガイドの皆さんの個性は、そうした社会でたいへんな強みになるかもしれません。

栗栖おっしゃる通りで、彼らは(障害があるゆえの)強い個性をもっています。一方で、平均的に何でもできるわけでなく、得意なことと苦手なことがはっきりしています。

今後の社会に求められるのは、そうした人が集まるチームをマネジメントする力です。それができれば、非常に面白いパフォーマンスを発揮するチームが、あちこちにできると思います。

佐々木そうしたマネジメントスキルは、リーダー1人だけでなく、みんながもつべきだと思いますか。

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栗栖はい。今日のプログラムでも、危険がないように何人ものスタッフが、いろんな視点から目を光らせていたことに気づかれたと思いますが、それと同じです。

ワントップよりもチームみんなで補い合うマネジメントこそ、これからの時代には強いのではないかと考えています。

田中ラグビーでは、プロップ、フランカーなど、それぞれ2人いるポジションで、必ずタイプの対照的な選手を配置しますが、これに似ているかもしれません。

佐々木わかりやすいたとえですね。では、私たち個人が多様性に対するリテラシーを養うには、何が大事だと思いますか。

栗栖それには、2つの「ソウゾウリョク」が必要です。一つはイマジンの想像力で、もう一つはクリエイトの創造力。

今日のプログラムでも、両方のソウゾウリョクを駆使してコミュニケーションしているのです。危険を予測し、この状況ではこんなことが起こるかもしれないから、こういう配慮をしておこう、と想像力を研ぎ澄ませる。

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想像した結果、見えてきた課題をクリアするうえで必要なのが、創造力です。この人とは言葉でコミュニケーションが取りづらいから、道具を使ってみよう、という具合です。

この2つの「ソウゾウリョク」をぐるぐる回しながら鍛えることで、どんなことが起きても対応できるチームになるのではないでしょうか。

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東京オリパラ、開閉会式のディレクターに

佐々木来年、東京オリンピック・パラリンピックがありますが、開会式・閉会式のクリエイティブディレクター8人の中に、栗栖さんは名を連ねています。皆さん個性が強そうですが、仲良くやっていますか?(笑)

栗栖ご一緒するのは野村萬斎さん、椎名林檎さん、山崎貴さん(映画監督)、MIKIKOさん(振付家)、川村元気さん、佐々木宏さん、菅野薫さんと、めちゃくちゃ強烈な個性をお持ちの皆さんです。専門分野が違うので、使う言語も手法もバラバラで(笑)。

絵に描いたような「ザ・多様性」の中で、もがきまくりの日々ですが、絶対にいいものを作ろうと試行錯誤を重ねています。

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佐々木栗栖さんが、この仕事を通じて訴えたいことはありますか。

栗栖そうそうたるメンバーの中に、無名な障害者である私がポンと入っていること自体、かなり革命的なことだと思うんです。

だからこの仕事を通して、障害のある人たちがオリンピック・パラリンピックのチームメンバーとして舞台に立てるチャンスを作りたいし、その様子を見た人に「障害があってもこうして一緒に舞台に立てるんだ」と思ってもらいたい。

障害があると、イベントで人前に立つまでに、物理面でのハードルがたくさんあります。

私や何人かのメンバーは2016年のリオデジャネイロパラリンピック閉会式のフラッグハンドオーバー(引継ぎ式)に出席しましたが、不自由な体に36時間のフライトは本当にこたえました。

来年の東京では、リハーサルなどで炎天下に長時間いることもあるでしょう。健康な人でも過酷ですが、障害者の中には汗がかきづらい人もいたりして、心身への負担は相当なものになります。

aflo_107251075工事中の新国立競技場(2019年7月、Photo by つのだよしお/アフロ)

それでも、あらゆるアクセシビリティを改善し、彼らが安全に舞台に立てるようにしたい。障害のある人とない人が、一緒に体を動かしてセレモニーを成功させる体験を、1人でも多くの人に味わってほしいんです。

なぜなら、今日のわずか90分のプログラムでも、皆さん色々と感じるところがあったと思います。これがオリンピック・パラリンピック舞台となると、そこから得られるものは計り知れないからです。

そして、オリ・パラのために全国から集まった人々は地元に帰ります。この経験を機に、彼らが各地域のダイバーシティを推進する原動力になってくれれば、これほどうれしいことはありません。

障害のある人が、安全に舞台に立てるように全力でサポートすることが、今の私のミッションです。

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後編は