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ネイティブスピーカーの表現から学ぶ

同時通訳者として、ビジネスの最前線で活躍する関谷英里子氏。これまでに通訳したのは、Facebook のマーク・ザッカーバーグCEO、テスラのイーロン・マスクCEOなど錚々たる顔ぶれだ。 関谷氏は、6歳から9歳の間、イギリスに住んでいたことと、高校時代の1年間の留学を除き、基本的に日本で英語力を身につけた。

「大学時代に英検1級を取り、『私は結構英語ができる方だ』と思っていたんです」

673A5044-2関谷英里子氏

図らずも苦戦を強いられたのは、社会人になってから。新卒で伊藤忠商事に入社し、海外とのやりとりが多い部署に配属された。

「思うように自分のパッションを伝えられていないと痛感しました。相手の反応を見れば、興味があって聞いてくれているかどうかがわかります」

そこで関谷氏がとった練習法は、ネイティブスピーカーの話し方をよく観察し、良いと思った表現を自分でも使ってみるというものだった。

自身の経験から、英語力を高めたいビジネスパーソンに、英語自体を勉強するより、英語を〝使って〞自分の専門分野やビジネスに必要なノウハウを学ぶのが効果的だとアドバイスする。

「英語学習のための英語ではなく、実際に使われている表現を学ぶことが大切なので、推薦書は洋書を中心にノウハウ系を選びました」

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仕事に必要な言い回しから交渉術、起業まで

まずはビジネスシーンで使われる表現が詰まった『Perfect Phrases for Managersand Supervisors』『世界中で通じる! 製造現場の英語』の2冊だ。

『Per fect Phrases for Managers andSupervisors』は、上司向けの部下に対する言葉遣い集。

「日本では、上司に対して失礼のないようにと気を使いますが、海外では部下に対して言葉遣いに気をつけることがわかります」

『世界中で通じる! 製造現場の英語』は、メーカー勤務の人に限った本ではない。

「挨拶や人の褒め方など、ビジネス全般で使える言い回しが網羅されています」

スライドを使ってプレゼンする際の参考になるのが『slide:ology』だ。

「日本人の登壇者によく見られるのが、文字が多いスライド。要素を詰め込みすぎて、会場の後ろの人は何も読めないといったことがよくあります。海外だと、1つのスライドには1つの内容だけを書くのが一般的です」

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基本的なビジネスのコミュニケーションをマスターしたら、身につけたい上級テクニックが交渉術である。関谷氏が「これまでの交渉術のバイブルを覆す良書」と強く推すのは、『Never Split the Difference』だ。著者は、元FBIで人質解放のネゴシエーターを務めた経験を持つ「交渉のプロ」。

「これまでの王道は、相手から『イエス』を引き出せ、というものでした。しかしこの著者は、まず引き出すべきは『ノー』だと言うのです。嫌々『イエス』と言わせても、人は結局行動しない。初めに否定させて相手の一番強い感情を聞き出せというわけです」

将来起業を考えている人や、自分の組織に変革をもたらしたい人にお薦めなのが『Venture Deals』『The Four Steps to the Epiphany』『Lead and Disrupt: How to Solve the Innovator's Dilemma』の3冊だ。

『Venture Deals』はベンチャーキャピタリストの業務が具体的に記されている。一方、『The Four Steps to the Epiphany』では「起業家たるもの、こうあるべし」というマインドセットが学べる。

「著者スティーブ・ブランクは、スタンフォード大学で起業家を目指す生徒に大人気の授業『Lean Launchpad』の先生です。この授業出身で、起業して成功した人も数多くいます」

『Lead and Disrupt: How to Solve the Innovator's Dilemma』は組織論が専門のスタンフォード大学の大御所が「組織をどう変革させるか」というテーマで書いた本だ。関谷氏は必読の論文も加える。

「大企業におけるイノベーションを考えるうえでは、『両利きの経営(The Ambidextrous Organization)』という論文は外せません。20ページほどの短い中に、エッセンスがぎっしり詰まっています」

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ビジネスと人生のデザインを学ぶ

さらにビジネスパーソンが身につけておきたいスキルとして、「デザイン」を挙げる。

「最近はユーザー目線に立ったデザインが求められているので、一般の人でも基礎知識は持っておいた方がいい」

デザインを専門としない人が辞書的に使えるのが『Universal Principles of Design, Revised and Updated』だという。

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最後に関谷氏が薦めるのは、「生き方」について深く考える2冊の本だ。近年日本でもよく聞く「デザイン思考」を人生設計にも取り入れようというのが『Designing Your Life』

「プロトタイピング(試作)してテストする、というのがデザイン思考の特徴的なやり方なのですが、この本でも『5年後、自分がどんな人生を送っているか』について3パターンを考えてみよう、といったワークが用意されています。しかもただ考えるだけではなく、それに近い生き方をしている人にインタビューをして、ライフプランの具体性を高めていく。今はない仕事をどうやってつくっていくか、実践的な方法を教えてくれます」

『How Will You Measure Your Life?』は『イノベーションのジレンマ』の著書として知られるクレイトン・クリステンセン氏の本。

「彼は戦略の専門家で、企業の業績の測り方などを考察してきた人です。経営学の理論をどのように人生に応用させていくか、どのように人は人生について考えるべきかを問いかける示唆に富んだ1冊です」

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推薦書10冊のうち、9冊が洋書というラインナップだが、洋書はハードルが高いと躊躇する人もいるだろう。関谷氏は、初めから洋書で読む必要はないと助言する。

「まず邦訳を読んで内容を頭に入れてから洋書を読むと、いちいち辞書を引くことなく読み進められます」

洋書の邦訳があれば両方購入するのが、ハードルを越えるコツのようだ。最後に紹介した「生き方」について考える2冊は邦訳が発売されているので、手に取ってみてはいかがだろう。

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Book List

[ビジネスの現場で必須]

Meryl Runion/著

ビジネスシーンで使う英語の言葉遣いについて、ネイティブスピーカーが学ぶ際に使う本。「部下を持つようになったら読む本」という位置づけで、相手と良好な関係を築きつつも、簡潔に的を絞って伝えるにはどうすればいいか、具体的な表現がたくさん紹介されている。

デイビッド・A・セイン/著 アスク出版

製造現場のみならず、さまざまなビジネスの現場で使える実用的な英単語やフレーズが1冊になっている。人間関係を円滑にするための表現、アドバイスの仕方、褒め方、注意を喚起するための表現、指導の仕方などもカバーされているため、ビジネス全般で役に立つ。

Nancy Duarte/著

効果的なプレゼンとスライドの作り方を指南した本。「文字が多くて読みきれない」など陥りがちなミスを排し、世界標準のプレゼン技術を身につけたい人にお薦め。筆者はアル・ゴア元米国副大統領の『不都合な真実』のプレゼン資料を制作したことでも知られる。

[交渉]

Chris Voss, Tahl Raz/著

元FBIで人質を解放する交渉人を務めていた著者が、その経験をビジネスの現場で応用できるように書いた本。交渉相手に「ノー」と言わせて本音を引き出す方法や、効果的な「ごめんなさい」の言い方、戦略的な「共感」などを通じ、交渉を成功させる極意を紹介している。

[イノベーション]

Brad Feld,Jason Mendelson/著

起業家とベンチャーキャピタリストを目指す人は共に必読。スタートアップのエコシステム全体の知識を網羅し、VCの業務や、資金調達の方法が書かれている。資金調達に当たっての戦略の立て方や、VCがスタートアップのどこに注目して出資しているのかを理解できる。

Steve Blank/著

「起業家のマインドセット」を養うのに適している本。著者はスタンフォード大学の大人気講義「Lean Launchpad」の講師。新規事業が失敗する典型的なパターンについて考察しており、「顧客開発モデル」に基づいてスタートアップが成長するのに必要なことが学べる

Michael L. Tushman,Charles A. O’Reilly III/著

スタンフォード大学の大御所で、組織論を専門とするチャールズ・オライリー氏の著書。「組織をどうやって変革させるか」「どういう企業が廃れてしまうのか」などをテーマに、大企業でイノベーションを起こすための方法を考察している。

[デザイン]

William Lidwell, Kritina Holden,Jill Butler/著

近年ビジネスの分野でも重要性を増している「デザイン」を概観するのに優れた本。「ベビーフェース効果」や「80対20の法則」など、デザインの基本となるコンセプトを豊富なイラストや実際の例と共に紹介。網羅的にカバーされているので、辞書代わりになる。

[生き方]

Bill Burnett,Dave Evans/著

「デザイン思考」で人生設計をするというコンセプトの本。著者はスタンフォード大学のデザインスクールで教える人物。「自分が一番やりたいことを仕事にするには」という観点で、読者が実践できるワークを掲載。邦訳は

Clayton M.Christensen/著

『イノベーションのジレンマ』の著者が「人生」について考察した本。経営戦略の大家が、心臓発作やがんなどの病を乗り越えて、ハーバード・ビジネススクールの教え子たちに向けて語った言葉が染みる。邦訳は

[論文もお薦め]

「The Ambidextrous Organization」(Harvard Business Review)Charles A.O’Reilly III, Michael L.Tushman

「Organizational Ambidexterity:Past, Present and Future」(Academy of Management Perspectives)Charles A.O’Reilly III, Michael L. Tushman

「大企業イノベーションを考えるに当たって、重要となる論点がコンパクトにまとめられた論文。新規事業開発やオープンイノベーションに携わる人は読んでほしい。特に『The Ambidextrous Organization(両利きの経営)』は必読です」。

*本記事は「NewsPicks Magazine Vol.2」からの転載です。