第1回は

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採用は、経営者の一番の仕事

松本後半では、ラクスルの採用についてお話しします。私ははかねがね「経営者にとって、一番重要な仕事は採用」と言っています。その背景には、手痛い失敗体験があります。

我々は創業から数年後、資金調達のシリーズA、Bのタイミングで、一気に大量の人材を採用しました。当時の正社員が15名ぐらいだったところに、一気に5名を採用したのです。

しかし、そこから半年も経たないうちに、もともといた社員を含む、7名が退社してしまったのです。じつに離職率40パーセント。起業して一番辛かったのはその時期でした。

___DSC_1010松本恭攝/ラクスル株式会社 CEO & Founder

なぜそのような事態が起きたかというと、レジュメに書かれていた経歴だけを見て、ビジョンに共感がない人を採用してしまったからです。その経験から、人材採用は最も重要な仕事だと痛感しました。

以前、シリコンバレーの投資家から、「Aクラスの人材はAクラスを採用して、BクラスはCクラスを採用する、CクラスはDクラスを採用する」という言葉を聞きました。

どういうことかといえば、本当に優秀な人は自分より優秀な人を連れてくるけれど、そうでない人は自分の子飼いを連れてくる。すると組織はどんどん劣化していくから、自分より優秀な人を採用できる、トップクラスの人材を集めなければならないということです。

このことを、今の役員には徹底しました。とくに取締役をはじめとするリーダー陣には、自分よりも優秀な人を採用する。それを徹底することで今はいい形になりました。

社内では、「採用は人事の仕事ではなくてリーダーの仕事」と明言しています。自分が欲しい人は自分で連れてくる。それもチームメンバーではなく、自分と同等か、自分よりもレベルの高い人を連れてこないと、その人は昇格できません。

つまり「採用は会社の中心」というメッセージを、評価制度や報酬制度にも組み込んでいるのです。

iStock-950778206Photo by i-Stock/tomertu

前述の経験から、採用の際はビジョンへの共感、カルチャーフィットを何よりも大事にしています。その上で、スキルフィットを見ていきます。

その両方を測るために選考過程では、候補者の上司になる人、部下になる人、別の部署の人、上司の上司、役員の最低5人が面談をします。一定のグレードの候補者には、私が直接面談をします。

その後に実際の業務で使う課題を渡し、半日ほど準備して実際にプレゼンテーションをしてもらいます。

これは候補者だけでなく、私たちにとっても時間的コストがかかります。しかしそれでも、カルチャーやスキルがフィットする候補者を採用することは、会社の成長にとって不可欠です。一つの基準として、「採用した人が、入社後すぐに面接官に回れるかどうか」を見ています。

会社の拡大期はどうしても、「とにかく人が欲しい」という状況になりがちですが、ぐっと耐えて、人材のクオリティーを絶対に落とさないようにしています。

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「優秀さ」とは何か

よく「ラクスルにおいて、優秀さの定義はなんですか」と聞かれることがあるのですが、ラクスルにおける優秀さは 「解像度を高める・仕組み化ができる・互助連携」 の3つの要素に分解されます。

1つ目の「解像度を高める」とは、実際の現場の中で、課題を発見できる能力のことを指します。現場に足を運んだり、電話でリサーチしたりして、現場の課題に関する解像度を高めていく。会議室の中で論理的にアイデアを話せるだけでは不十分です。

なぜかといえば、私たちが行っているのは商売であり、試験ではないからです。現場に目がいかない人は、顧客の理解も、サプライヤーの理解もできません。

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2つ目の「仕組み化ができる」とは、解像度を高めて発見した課題を、仕組みに落とし込む能力です。課題を属人的に力技で解決しても、再現性がないため、会社では評価されません。とくにテクノロジーの力を使って、いかにシステム化するかが問われます。

3つ目の「互助連携」とは、チームで仕事をする能力のことです。私たちのビジネスはバリューチェーンが長く、とにかく多数の人が連携を取らないと、円滑なオペレーションができません。

私たちのような「リアル×インターネット」という事業体の特徴ですが、テクノロジーを使いつつも、リアルのオペレーションを軽視できません。

そのため、ラクスルにおいては、「高い解像度、仕組み化、互助連携」。この3つを持っている人が優秀である」と定義しています。

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「高給が払えないといい人材は来ない」は本当か?

多くのベンチャー起業が直面する壁の一つに、「優秀な人材を採るにはお金がかかる。それが難しいので、人材のレベルを妥協せざるをえない」というものがあります。

高い給与を払えないフェーズでは、ストックオプションの設計が大切になります。ストックオプションの価値を理解できるレベルの人材を採用するということです。また将来的に、給与を上げていくという意思を、きちんと示すべきでしょう。

ただし一番大切なのは、きちんとビジョンを語ってそこに共感してもらうことです。 もちろん給与は大切ですが、人は転職するときに給与によってのみ動くものではありません。会社の目的・働く人の魅力は、給与と同じほど、むしろ給与より重要です。その部分をいかに見せられるかが、経営者にとって重要です。

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世の中を長い目で見る

私は採用に関しても事業投資に関してもそうですが、多面的・長期的視点を持つことを意識しています。

今の世の中は、事業も投資も個人のキャリアも、あらゆる面で多くの人が「短期的な結果」を求めすぎている気がします。

一方、私たちの社会制度の根幹をなす資本主義は「複利」を基本にしています。つまり長い時間軸で取り組むと、インパクトが大きくなる仕組みなのです。

例えば投資家のウォーレン・バフェットは、20~30年前までは偉大な投資家とは見なされていませんでした。しかし彼は資本主義の本質を見抜き、優良銘柄に徹底して長期投資を行うことで、偉大な投資家になりました。

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これはあらゆる事柄に関して言えることです。いまは多くの人が、短期的な成果を求めます。逆に考えればこれはチャンスでもあり、長期的な視野で本質的な価値にベット(賭け)できる人は、それだけで優位に立てるでしょう。

私個人の一番の競争優位は、「我慢できる」ことにあると考えています。ラクスルでも短期での利益を追求せず、30年を一つの時間軸として考える。それを社内でも浸透させるために、「ラクスルは30年後、日本の産業のインフラになることを目指す」と言い続けています。

そして多面的・長期的に物事を捉えるためには、幅広く知識を集めることが必要です。私は自分が関わる業界の知識だけでなく、例えば政治やアートなど、全く関係が無さそうなジャンルの情報も知るように心がけます。

特に知るべきは、歴史です。長い将来について考えたいときは、長い過去を知るのが一番です。時間軸を長くとればとるほど、思考はオリジナルなものになっていきます。

イノベーションとは全く無から生み出されるものではなく、既存のアイデアの掛け算・組み合わせで生まれます。組み合わせのダイバーシティが広ければ広いほど大きなイノベーションが起きます。

そのため、ジャンルを絞らずにあらゆる情報に興味を持ち、幅広いインプットをすること。それにより、自分の引き出しの幅が広がり、イノベーションにつながる多様なアイデアが浮かぶようになるのだと思います。

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