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価値創造のカギは「ゆるいコミュニケーション」?

「答え」のない時代を生きる私たち。従来の正解主義からの脱却を。新たな価値を創造せよ――。そこかしこで語られるキーワードに、異議を唱える人は少ないでしょう。

ところが、会議室の中、みんなで頑張って考えていても「新たな価値」はそう簡単に生まれません。世の中に目を向けてみると、「新たな答え」が旧来のシステムを破壊し、急にそっくり取って代わることはほとんどない。一体なぜでしょうか。

僕たちはコミュニケーションという名の行為を重ねて、日々、共通の「意味」をつくる活動を行っています。人は言葉の背景にある「意味」をふまえて伝え合い、そのやり取りの中で社会的な「意味」が新しくつくられていく。

同じ日本人でもコミュニケーションがずれることがあるのは、言葉の背景にある「意味」が異なるからです。

会社ならその会社において、高校の部活ならその部活において、「コミュニティの中では、根底にある『意味』は大きく違わない」という前提で人々はやり取りをします。

会社で仕事をするときに、働き方やプロジェクトの進め方などを考えたり話し合ったりはしますが、そもそもなぜ働くのか?という「意味」そのものを問うことはあまりしません。

戦後数十年かけて成長し辿り着いた、従来の“よくできた”社会システム、真面目で生産的な空間の中では、そもそもの大前提を問うことは歓迎されないのです。むしろ、時間のロスと見なされ、なかなか許されないでしょう。

やり取りの中で新たな「意味」が生まれるには、その場にゆるさが必要なのです。

大前提をなんとなくしか共有しあっていない、ゆるい関係、それを平気で疑えるゆるいやり取り。従来の仕組み、組織のあり方から少しずらした、目標やゴールを決めきらない余白のある空間をつくり、面白く試行錯誤すること。

僕は、この「ゆるいコミュニケーション」が、イノベーションのための一つのキーワードだと考えています。

硬直した社会システムに真っ向からぶつかって反対するのではなく、型通りから少しだけずらしてみて、「ゆるめる」。そして、みんなで「面白がる」。

この「ゆるいコミュニケーション」の試行錯誤から得られた発見を、少しご紹介します。

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地元の女子高生が住民自治やまちづくり活動に参加する実験的プロジェクト「鯖江市役所JK課」(福井県鯖江市)を提案し、新たな公共事業として採択されたのは2014年の春。

学生を地域活動に参加させる例はこれまでもありますが、大人や専門家が用意したプログラムに学生を参加させるのが従来のやり方でした。

JKka若新氏がプロデューサーを務めた「鯖江市役所JK課」

「鯖江市役所JK課」で徹底したのは、“プロの素人”である女子高生たちに主導権を渡し、気軽に疑問や違和感、アイデアを口にできる脱力的空間をつくること。大人が直接の指導をせず、意見を引き出そうとしないことです。

女子高生たちに好き勝手話す場を与え、生み出すものを委ねたことによって、これまで大人たちが気づかなかった問題も次々と見つかりました。

たとえば朝の通学で利用する市営バスの到着時間が、学校の始業時間に合っていないこと。話を聞いた市長は驚き、すぐにバスダイヤの改善を約束しました。

まちを美化するゴミ拾い活動を楽しいイベントにしたいという思いで女子高生たちが始めた「ピカピカプラン」。

コスプレをしてゴミ拾いをする、という企画から、市のゴミ袋がダサい、という話が出てきて、数か月後に、ピンクとブルーの「かわいいゴミ袋」が市によってつくられました。

市役所のホームページには問い合わせ窓口があります。しかし、女子高生たちには、そこにわざわざ連絡するなんて発想はない。そもそも本人たち自身にも、これらが「解決してもらえるもの」だという意識はなかったはずです。

いかにも会議らしい「問題を話し合おう」という空気ではなく、あえてゆるく話せる場所をつくったことで、過去の“当たり前”から離れ、自分たちでつくること、変えることを模索できるようになったのでしょう。

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雇われたくない若者たちが言い逃れのできない主体者になったとき、果たして主体性は生まれるのか。新しいルールや文化、秩序のようなものはつくられていくのか。

そんな思いから始めた実験プロジェクトが、全員ニート、全員取締役の「NEET株式会社」です。

このプロジェクトの目的は、ニートを援助するのではなく、ニート問題を解決するのでもなく、ニートという現象にただ付き合っていくこと。さまざまな理由で働けない、働かない若者たちを“正しい場所”に戻すのではなく、ずれているならずれているなりの働き方や生き方を別に模索しようとするものでした。

「ふつう」の会社組織にあるルールやヒエラルキーをつくらないことで、たびたび取締役同士で生々しい感情の衝突が起こりました。長時間の会議、まとまらない意見、仕事がうやむやになるなど、問題ばかり。それでもゼロから制度や組織をつくることを徹底しました。

その結果、いくつかの独特な活動が生まれました。たとえば一時間1000円で自分を遊び相手として貸し出す「レンタルニート」。ニート同士が出会い、自由に遊んだり話したりしながら交流できる場をつくった、ニートによるニートのための活動、略して「ニー活」。

どちらも目的は社会復帰や就職ではありません。誰かと約束してなにかしら活動できる日をつくることで「ニート生活を充実させる」のが目的です。

ニート同士が安心のコミュニティをつくり、だらだらと遊びながら、お金を稼ぐ理由ができたときにちょっとだけ稼ぐ。それも人生のバリエーションの一つのはず。あえて「ゆるく」物事を考えることで、これまでとは違う社会をつくる「新たな意味」が生まれるのです。

_________お菓子を食べながら興味のあることなどを話す交流会「ニー活」
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社会のリアルを変革する「創造的脱力」のススメ

経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは、社会が発展し新たな方法が生み出されイノベーションが起きるときには、古い経済・経営体制が破壊されながら、新たな経済発展へと新陳代謝されていく「創造的破壊」を唱えました。

しかし、これは結果論ではないかと思うのです。

新たな社会システムが定着する過程で、たしかに古いシステムは破壊される。だからといって、まったく新しいプランを「新しい答え」として正面からぶつけて、硬直した社会システムがきれいに入れ代わるでしょうか。

従来の地方自治における、議会を中心とした間接民主主義の限界を指摘し、それを正面から破壊するアプローチもあるでしょう。しかし、あえて「鯖江市役所JK課」という「ゆるいプラン」で始めることで、これまで地方自治に関わることのなかった人たちが気軽に活動に参加する最初の余白ができます。

失敗したらやり直せばいい。うまくいったのなら、どんどん広げていけばいい。その結果、いつかは本流にすり替わったりするかもしれません。

大前提を疑い、リアルな社会で革新を可能にするのは、「破壊」ではなく「脱力」ではないかと思うのです。真正面からぶつかるのではなく、少しずらして「ゆるいコミュニケーション」で試行錯誤を楽しめる環境をつくってみる。

「ゆるい」とは必ずしも力を抜くばかりではありません。「ゆるい」がゆえに生々しい感情のやり取りが生まれ、疲れてしまうこともあるでしょう。その人間性に満ちた関わり合いを通じてこそ、新たな「意味」のイノベーションが起きて、粘り強くしなやかな創造につながるはずです。

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今日の授業のポイント

  • 人間は、コミュニケーションを通じて共通の「意味」をつくる。変えることもできる。大前提を疑い、新たな価値をつくるには、そもそもの「意味」を問い合えるゆるさが必要。

  • 「鯖江市役所JK課」の取り組みでは、「問題を解決しよう」という空気をあえてつくらなかったことで、おしゃべりを楽しむ中から問題発見や解決が生まれた。

  • 硬直した社会システムに真っ向から対峙するよりも、ゆるいコミュニケーションから生まれる「創造的脱力」の姿勢が、意味のイノベーションにつながる。

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Further reading

1.  國領二郎/著 日経BPコンサルティング

2.  船津衛/著 恒星社厚生閣

3.  中原淳,長岡健/著 ダイヤモンド社

4.  シェル・シルヴァスタイン/著 講談社

5. 』 若新雄純/著 光文社

*連載「大人の課外授業」は、NewsPicksと「スタディサプリ進路」のコラボ企画です。スタディサプリ進路は、高校生が大学名や偏差値によらず、自分が心から取り組みたい学問や研究、学びたい教授から進路選択する行動を応援することで、「学びたい・学んでよかった」がもっと増えていく世界を創り出す挑戦をしています。今回の連載では、人々の好奇心をそそる最先端の研究を紹介することで、その世界観の一端をお伝えしていきます。