ロボットと生き物はどう違う? 

ロボットは素材が硬いし動きも硬い。まるで別物だ。

ではもし、「柔らかい」ロボットが作れたら――? 

今回の「大人の課外授業」は、日常生活で活躍するロボットの開発を目指し、従来のロボット工学とは異なりゼロベースで考える“生き物に近いロボット開発”の挑戦について、ロボット工学者の梅舘拓也氏が語る。

1/4

「生き物のようなロボット」とは

突然ですが、産業用のロボットを思い浮かべてみてください。工場の中で使われている、人間の代わりに作業を行うロボットです。

このロボットのところに小さな子どもが走っていき、ハグしようとしたら――? 「危ない!」と誰もが子どもを止めるでしょう。

なぜ危ないのか。工場の中で効率的に動くために最適化されたロボットは、ほとんどが金属製で「硬い」からです。このような硬いロボットが動いたり、身体を変形させるためには、人間で言うと関節に当たる部分をパワフルなモータで動かします。力を逃がす機構がないので、一歩間違うと人を押し潰してしまいかねません。

一方、子どもがハグしようとした相手が人間や動物ならどうでしょうか。生き物の身体は、筋肉、健、皮膚組織など「柔らかい素材」で作り上げられています。「柔らかい素材」はとても機能的です。

たとえば子どもがハグしてきたとき、相手の身体の面にぴったり沿う形で変形することができます。そしてしなやかに動く。クラゲやヒトデなどの原初的な生物であっても、非常に少ない神経組織で、ほぼ無限大ともいえる自由度で、意のままに動くのです。

これまでのロボットの多くは“工場という限定された空間の中”で使われる前提で作られてきました。ただ、日常生活や自然環境の中で使用するとなると、「硬い」ロボットでは機能や安全性の問題が出てきます。

でこぼこした土の上をしなやかに動くことができるか。また、ペットのような役割を担うロボットであれば、効率的な動きよりも安心感や安らぎが求められるでしょう。

日常生活でも活躍する「生き物のようなロボット」をつくる。そのためには従来のロボットの設計や製造方法から、まるで発想を変えなければなりません。さて、何から、どんなヒントを見つけてくれば良いでしょう?

image1

単細胞生物、たとえばアメーバには脳や神経がありません。それなのに「高温」「低温」「とがった針」「振動」などのさまざまな外部環境による危険から、即座に泳いで逃げることができます。

脳のない生き物の振る舞いには、すべての生物に共通する“生存するための”相互作用による動きのヒントが隠れているはずです。

そこで、巨大な単細胞生物である真正粘菌の変形体(活動、成長している時の姿)に着目しました。真正粘菌とは、普段は腐った木や落ち葉の積もった林に生息している生き物です。

その動きのメカニズムをマネすることで、コントローラーなどを使って外部から制御することなく、刺激に向かって“自ら”進むロボットを開発しました。

image2

image3

工場用の硬いロボットのための工学では、柔らかい素材の動きを制御することができません。そこで着目したのが「イモムシ」です。イモムシは、生き物のボディデザインの基本である円柱形をしています。

その形のままで地面や木をはい回ることができるイモムシから設計を抽出し、作ったのがイモムシ型ロボットです。 各体節が前後の体節の状態を把握し、収縮タイミングを自動的にずらすことで波のように力が伝わり、前後に動くことができます。

このロボットも、コントローラーを使って各体節を動かしているわけではありません。別の部位の動きを受けて、その場その場で動くようになっています。

このように、生き物のしくみを模倣することで、従来のロボットが採用していたシステムとは異なる、リアルタイムで外からの力に応答したり、ある部位からある部位へ力を伝えたりする仕組みを実現できているのです。

2/4

「身体」の仕組みから知能を解明する

生き物を観察し、場合によっては飼育しながら、その動きをお手本にしてゼロベースでロボットの仕組みを考えるのがこの研究です。ただ実際に生き物そっくりのロボットを作って、身体を動かしてみないと、そのメカニズムがわからない場合もあります。

そこで役に立つのが、3Dプリンターやレーザーカッターなどの、デジタルデータを形にする技術です。

現在は、3Dプリンターによってフィルムの上に回路を印刷することができます。

米国マサチューセッツ州のタフツ大学で研究を行っていたときに制作したイモムシ型ロボットは、パーツを3Dプリンターによって作り組み合わせるのではなく、全体を3Dプリンターで制作しました。実際に作って動かしてみることで気づくことはたくさんあります。

ロボットについては、これまで、どれだけ賢い知能をつくるかばかりが注目されてきました。しかし、iRobotの創業などで知られるロボット研究者ロドニー・ブルックスは、知能は知覚系(センサー)だけではなくモーター(駆動系)との連動から生まれると提唱しています。

つまり、生き物の知能、賢さ、情報処理を理解するためには、“身体”そのものが絶対に必要だということです。

特に、柔らかい素材で、柔らかい動きをする生き物のようなロボットを作ろうと思うと、外部の環境との接地面がダイナミックに変わっていくのに対応しなければなりません。ロボットの形や動きをある程度作り込んだら、次はいろいろな環境での動きを見ていく。

そうしたプロセスを経て、最終的には、予期せぬ事にどう対処するかといった、生き物としての頭の良さ・知能にかかわる部分を解明していきたいと思っています。

さらにロボットにつかう素材を工夫することで、細胞を成長させて自己治癒できるロボットさえも作ることができるかもしれません。

こうして開発したロボットをいかに社会へ応用するかは、まだ模索中です。たとえばミミズのようなロボットが完成すれば、泥水の中などを進んで害虫を駆除するなど、人間が対応できない部分も担っていけるかもしれません。

どんなふうに人間や自然環境と共生していけるか、活躍の仕方はこれからです。

3/4

今日の授業のポイント

  • 工場の中で効率的に動くために最適化された「硬い」ロボットに対して、生き物のように柔らかい素材でしなやかに動けるロボットの開発が進んでいる

  • 自律的な動きや柔らかい素材で柔軟に動くメカニズムを、生き物を模倣することによって解明し、ロボット開発に役立てている

  • 生き物の頭の良さや知能を解明し、より生き物に近いロボットを作るには、知能だけでなく“身体”そのものの研究が重要である。

4/4

Further reading

』 細田耕/著 化学同人

』 中垣俊之/著 PHP研究所

』 鈴森康一/著 講談社ブルーバックス

』 R.Pfeifer, J.Bongard/著 細田 耕, 石黒 章夫/訳 共立出版

』 Stephen A. Wainwright/著 本川達雄/訳 東海大学出版会

*連載「大人の課外授業」は、NewsPicksと「スタディサプリ進路」のコラボ企画です。スタディサプリ進路は、高校生が大学名や偏差値によらず、自分が心から取り組みたい学問や研究、学びたい教授から進路選択する行動を応援することで、「学びたい・学んでよかった」がもっと増えていく世界を創り出す挑戦をしています。今回の連載では、人々の好奇心をそそる最先端の研究を紹介することで、その世界観の一端をお伝えしていきます。