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時代の変化に合わせて「法」もデザインせよ

今年3月。「漫画村」などの海賊版サイト対策として、インターネット上の違法ダウンロード規制を強化する政府の動きに「待った」がかかりました。

我々法学者やさまざまな関係者から懸念の声が上がったことに加えて、本来、この法改正によって権利を守られる側であるはずのマンガ家からも、「範囲の広すぎる規制は、未来の創作や研究といった活動を萎縮させる可能性がある」と指摘されたのです。

インターネット登場以降、これまでにはなかった表現やカルチャー、イノベーションが生まれる一方で、悪質な海賊版サイトなど、過去にはなかった問題が出てきました。新たに制度やルールを設けることが必要な場面も、確かにあるでしょう。

しかし、法の役割は果たして規制のみなのでしょうか。まだ誰も見たことのない新しいもの・新しい価値観が生まれるためには、余白やゆらぎ、グレーゾーンのようなものが必要です。それらを一律「ルールだから」と潰してよいのか。

社会の在り方や産業の形、そして世の中の豊かさそのものが変わっている今の時代だからこそ、新しいものや革新的なものの誕生を応援する、うまく加速させるための“潤滑油”や“補助線”として法をとらえたい。

それが私の「法をデザインする」という考え方です。法を押し付けつけられるものではなく、主体的に捉え、設計していくべきルールだとする見方だとも言えます。

法律を実際に変えるのには、長い年月が必要です。でも、法の解釈や、契約書の作り方ひとつで、行きたい方向へ後押しすることはできます。創造やイノベーションが生まれやすい環境をつくるには、どのように法と向き合えばいいのでしょうか。

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YouTubeなどの動画サイトでは、世界中のユーザーによる二次創作等のコンテンツが毎日大量にアップロードされています。たとえばプロのアーティストの楽曲に合わせてダンスする「踊ってみた」動画。

しかし、著作権法で保護されている楽曲を許可なく利用した場合は、もちろん「著作権侵害」となります(原盤権の侵害等もありえますが、ここでは割愛します)。

ところが近年、権利者側がパロディや二次創作を受け入れるケースも見られています。

たとえば、2016年放送のテレビドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』では、主題歌である星野源の「恋」に合わせて踊る「恋ダンス」が人気を集めました。同時に、星野源の所属するレコード会社(や振付をしたMIKIKO先生)は、「ドラマ放送期間中であること」「YouTubeであること」などの条件を提示したうえで「恋ダンス」の動画に利用する限りは動画削除の手続きをしない、という対応を取りました。

利用条件に「YouTube」と限定しているのはなぜか。YouTubeには「コンテンツID」(動画や音声にIDをつけ、IDに基づいてアップロードされた個々の動画を認証できる仕組み)の機能があり、これを活用すれば、再生分の広告収入の形で、レコード会社側が収益を確保することも可能だからです。

もし「著作権侵害だから一律NG」としていたら、あの一大ムーブメントは巻き起こらなかったかもしれません。とはいえ「何でもどこにでも使ってOK」ではなく、権利者・二次創作者の双方がwin-winになる構造があらかじめ設計されていた。

YouTubeのプラットフォーム自体に、権利者側が収益確保できる機能があったからこそ、win-winになりえたのです。

私たちの行動は、法だけではなく、プラットフォームやサービス、インフラなどの、物理的・技術的な構造・制度(「アーキテクチャ」)による規制を受けます。法以外の環境にwin-winになりやすい構造をつくっておくことで、新たなカルチャーの芽を摘まずにすむこともあるでしょう。

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3Dプリンターやドローン、AI、ビットコインなどの仮想通貨(暗号資産)、ブロックチェーン。新たな技術が生まれるとき、私たちの生活環境にこれまでになかった変化をもたらしたり、国や政府が守らなければいけないものが脅かされたりすることがあります。

たとえば、3Dプリンターやドローンなら、生命や身体の安全性を脅かす使われ方をするかもしれません。ビットコインならば法定通貨に対する信用が低下するかもしれない。これらを守るために、法による規制が必要だという議論もあります。

新しい技術というのは、それ自体がどんな利用のされ方をするのか、今後どのような危険性があるのか、予測できないものです。安易に規制をかければ、創造性やイノベーションの芽を摘んでしまうかもしれません。まずは新たな技術をコントロールしようとせず、利用の「余白」を作っておくことが重要です。

もちろん、「起きるかもしれない危険よりも、新たな技術が利用されることや、イノベーションが起きることを優先すべきだ」と言いたいわけではありません。ルールが未整備だと大企業などが参入しづらく、その市場が盛り上がらないので、そのためにも一定の規制が必要な場合もあります。

変化が激しい社会だからこそ、その時の状況、変化に合わせてルールをアップロードしていく姿勢が必要だと伝えたいのです。

新たな技術やアイデアの権利は、法によって守られます。一方、近年では、イノベーションを目指す事業戦略の一つとして、特許権を戦略的にオープンにする企業もあります。あらゆる情報や技術を誰もが自由に利用できること(「コモンズ」)が、越境的・偶発的な出会いを生み出し、イノベーションにつながる。そういう考え方です。

法の仕組みだけなら、ルールから外れたものは叩くしかなくなります。活用の余白をつくる「コモンズ」、柔軟に設計した「アーキテクチャ」、そして“潤滑油”や“補助線”としての法律や契約。この3つのバランスが成り立って、「まだ世の中にないもの」が生まれやすい土壌ができるのです。

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ルールを「超える」視点を

新たな事業やサービスを立ち上げる起業家や、創作物を生み出し世に出すクリエイターは、これまでのルールの中でどうやって「まだ世の中にないもの」を形にするかと、もがいています。日本では特に“従うべきもの”としてルールをとらえている人が多く、それゆえに閉塞感が漂っている。

私は日頃、ビジネスの現場で活躍している起業家と話をする機会が多いのですが、法律に詳しいわけではないものの、活躍している起業家ほど法律との向き合い方に優れている人が多いと感じます。

「ルールだからダメ」から一歩踏み込んで、「何か理由があってこのルールがあるはず」「一体なぜダメだとされているのか」を考える視点があるのです。そのうえで「それでもそのルールを従う必要があるか、変える必要があるか」を問うわけです。

これは同時に「ルールを超える」視点でもあります。ルールを知り、ルールを俯瞰してとらえることができれば、ルールを最大限自分のために活用できるはずです。

これまでの価値観とは違う新しいものはダメ、イレギュラーは認めない、の一点張りではなく、法やルールで“ポジティブに”新しい兆しをとらえていく。それが、まだ世の中にない、新しいものの誕生を応援することにつながるはずです。

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今日の授業のポイント

☑ただ規制するためのものではなく、新しいものや革新的なものの誕生を応援するための“潤滑油”や“補助線”として法やルールをとらえるのが「法をデザインする」という考え方。

☑活用の余白をつくる「コモンズ」、柔軟に設計した「アーキテクチャ」、“潤滑油”や“補助線”としての法律や契約。この3つのバランスが創造性やイノベーションを加速させる

☑ただ「従うべきもの」としてルールをとらえるのではなく、ルールの理由を一歩深く考え、「ルールを超える」視点を持つことが重要。

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Further reading

1.  特集「ナラティブと実装」 コンデナスト・ジャパン

2.  佐久間裕美子/著 文藝春秋

3. 齋藤貴弘/著 学芸出版社

4.  マット・メイソン/著 フィルムアート社

5.  大村敦志/著 岩波書店

*連載「大人の課外授業」は、NewsPicksと「スタディサプリ進路」のコラボ企画です。スタディサプリ進路は、高校生が大学名や偏差値によらず、自分が心から取り組みたい学問や研究、学びたい教授から進路選択する行動を応援することで、「学びたい・学んでよかった」がもっと増えていく世界を創り出す挑戦をしています。今回の連載では、人々の好奇心をそそる最先端の研究を紹介することで、その世界観の一端をお伝えしていきます。