1/3

「スーパーハードSF」のススメ

今、テクノロジーの分野で活躍している連中で、10代の頃にSFを読まなかったやつは誰もいないんじゃないですか。イーロン・マスクやマーク・ザッカーバーグ、古くはスティーブ・ジョブズも、みんなSFが好きですよ。僕の知り合いも、経営者はほとんどSFを読んでいると思う。

SFは半径5万kmぐらいの世界を描いています。そういう宇宙規模の物語を読んでいると、大きく考える力が養われる。それは大人になってから、発想力の差として表れます。

だからザッカーバーグもマスクも、おそらく「アメリカで勝つぞ」とは思っていない。「地球を制覇するぞ」と本気で思っていますよ。

もっともSFといってもいろいろあるので、できればちゃんと科学的な知識のある人たちが書いている「スーパーハードSF」を読んでほしいです。

成毛眞氏

例えば『幼年期の終り』はスーパーハードSFの代表作ですが、作者のアーサー・C・クラークは、1945年に静止軌道上の衛星設置を発案しています。

今、私たちが見ている衛星放送に利用されている人工衛星は、赤道上空3万6000kmの所にあって、地球の自転と同じスピードで回っています。こういうものを軌道の上に造れば、地球から見たとき、常に静止しているように見えるはずだとクラークは考えた。その考えに基づいてNASAが静止衛星を打ち上げて成功させ、実用化に至ったというわけです。

あるいはもう絶版になってしまいましたが、『竜の卵』の作者のロバート・L・フォワードは本物の物理学者です。彼は中性子星という星について大学の授業で説明しようと、テキスト代わりに小説を書いたら、それが大傑作だった。それくらい科学的な知識のある人たちがさらに想像力を働かせて書いているのがスーパーハードSFです。

それ以外のファンタジーSFなどは、科学的な厳密さはさほど重視せず、「こうだったらいいな」という世界を描いている。読みやすいけれど、発想を広げる役には立たない。その点スーパーハードSFやハードSFは、そもそもこの世の中に存在しない世界を描いていますから、想像力がなければ小説世界を自分の中に構築できません。

だからできれば10代、20代のうちに読んでおきたい。自分が手遅れなら、子どもに読ませるといいでしょう。幼い頃から時空を超えて想像する訓練をしておかないと。

2/3

SF 小説はやがて現実になる

SF小説というと荒唐無稽な夢物語だと思われがちですが、実は何十年も前に書かれたSF 小説の世界が、今現実のものになりつつあります。例えば、『幼年期の終り』では、宇宙人が登場することを別にすれば、作品中で使われているテクノロジーは、ほぼ現実のものとなりつつある。

成毛眞氏

SFの父といわれるジュール・ヴェルヌが1873年に書いた、『八十日間世界一周』という作品があります。これはまだ飛行機もない時代に、気球に乗って世界一周旅行をするという話。ヴェルヌはまだ潜水艦がなかった時代に海底を旅する『海底二万里』も書いているし、1865年に『月世界旅行』を書いています。もちろん当時はロケットなどないから、大砲の玉か何かに人間が入って月まで飛んでいくわけです。

実はそれを読んでロケットを造りたくなり、実際に造ってみたのがツィオルコフスキーというロシアの物理学者。そのロケットを見たフォン・ブラウンというドイツ人工学者がアメリカに亡命した後、アポロ計画に参加して、人類は月まで行ったのです。

やはり同じことを積み重ねるだけではイノベーションは起こりません。奇想天外な発想がないと、大きなジャンプができない。それには広い視野を持って壮大なことを考えることが必要になる。これからは「妄想力」がキーワードになると思いますよ。

成毛眞氏
3/3

Book List

 ジェイムズ・P・ホーガン/著 池 央耿/訳 東京創元社

月面で宇宙服を身につけた死体が発見された。しかし調べてみると、この死体は死後5万年は経過しているという。もしや、これが人類の祖先なのか? 「僕のフェイスブック上の友達にはこの作品に出てくる古代の宇宙人・ルナリアンを名乗る人が大勢います。それくらいコアなファンが多い作品」。

 グレッグ・イーガン/著 山岸 真/訳 早川書房

舞台は人間の記憶や人格をコンピューターに移植することが可能になった未来。コンピューターが停止しない限り、不死の存在となった人間たちの支配する世界に、さらに永遠の存在となることを呼びかける人物が登場する。「この作品がすごいのは、量子コンピューターができる前に書かれていること」。

 アーサー・C・クラーク/著 福島正実/訳 早川書房

「これを読まないことにはSFを読んだとは言えない傑作。初心者がSFの感覚をつかむのにもいいかもしれません」。オーヴァーロード(最高君主)と呼ばれる姿を見せない異星人によって統治されることで、人類は世界平和を手に入れた。人類とは何か、宇宙とはどういうところかを問う哲学的作品。

 伊藤計劃/著 早川書房 

「作者の伊藤計劃は日本最高のSF 作家でしたが、30代で亡くなってしまった。もし生きていたら世の中が変わっていたはず」。9.11以降、先進国は徹底的な管理体制の強化によってテロを封じ込めることに成功。だが後進国では逆に大規模な虐殺が増加した。その陰には謎の「虐殺器官」の存在があった。

 オースン・スコット・カード/著 田中一江/訳 早川書房

少年エンダーは、「バトル・スクール」でゲームの訓練を受けている。しかし本人たちがゲームだと信じていたのは、実は本物の戦争だった。太陽系よりも遠い宇宙「ディープスペース」では、リモートコントロールで武器を操るため、戦い方がゲームそっくりなのだ。やがて人類の存亡を懸けた戦いが始まった。

 桜坂 洋/著 集英社

主人公キリヤは宇宙人と戦っている間に弾丸を受けて死んでしまう。しかし死んだ瞬間、出撃前日に戻ることができる。どうすれば死なずに済むか、試行錯誤を繰り返し、158回目のループで敵のコアまでたどり着く。「作者は日本人ですが、トム・クルーズ主演でハリウッド映画にもなっています」。

 ダニエル・キイス/著 小尾芙佐/訳 早川書房

幼児並みの知能しかない成人男性チャーリイが、大学病院で脳の手術を受けることに。頭を良くしてくれるというのだ。手術は成功し、チャーリイは天才に変貌するが、人間社会の愛や悲しみを知って……。物語はすべてチャーリイの独白で書かれ、彼の知能の変化とともに文体も変わっていく。世界的ベストセラー。

 筒井康隆/著 新潮社

他人の心を読むことができる超能力者の美少女・火田七瀬は能力を知られることを恐れ、家政婦として各地を転々としてきた。だがついに自分と同じ能力を持つ仲間とめぐり合う。「他人の心を読めたらいいなと思うけど、実際に読めたら、目の前の人がとんでもないことを考えていたりして、厄介でしょうね」。

 星 新一/著 新潮社

「特にこの本だけがいいというわけではなく、星新一はどれも素晴らしい。彼は独特のオチのある短編小説を〝ショート・ショート〞と名づけて生涯で1000編以上発表しました。彼の作品を丁寧に読み返している人によれば、彼の描いた世界も現在ではかなり現実のものになっているそうです。アイデアの宝庫ですよ」。

 景山民夫/著 KADOKAWA

海洋生物学者の父とフィジー諸島に移り住んだ12歳の少年洋助は、ある日、潮だまりで不思議な生き物を見つける。それは絶滅したはずの恐竜プレシオザウルスの子どもだった。人間と恐竜の子どもの交流を描く。「作者が新興宗教に入信後、事故死したので、顧みられることの少ない作品。もっと評価されていい」。

*本記事は「NewsPicks Magazine Vol.2」からの転載です。