本に込めた思い
ーー長尾さんがこの本(『』)に込めた想いや、読者に伝えたいことを教えてください。
長尾 世の中にはチームづくりで悩んでいる人は多いと思います。チームを育む場合には色々な方法がありますが、特に伝えたいことは3つです。
1つ目はチーム単位で成果をあげることに責任を持つリーダーが「うちのメンバーは全然ダメだ」と嘆いて、外から人材を引っ張ってくるのではなく、まずは「今いる仲間とうまくいくことを考えましょう」ということ。
2つ目はチームで仕事をすることを求められたときに「1人きりでどうにかしようとしなくていい」ということ。
そして、3つ目はチームをつくる場面において、自身のタイプに合ったやり方を探してくださいということです。
プレイヤーでずっとやってきた人が、ある日、主任とか係長といったポジションを与えられ、「何とかしろ」とか言われても、入社以来どうやって組織を育むかを体系立てて学んだこともないし、教わってもいないはずです。
「お手本になる人は社内で接してきた上司や先輩しかいない」という人がほとんどだと思います。
リーダーとか長の立場の人は、どうしても1人でなんとかしようとしてしまいますが、1人きりでチームをつくる必要はありません。相談しやすい身近な人を誘って、一緒にチームをつくるというやり方もあるはずです。
この本は、そんなチームに関する悩みを持っている人に手に取ってほしいです。

ーー確かにそういった悩みを抱えている人は多いですよね。特にスタートアップには体系的にチームをつくることを学んだことがない人が多いと思います。プレイヤーとしてこれまでやってきて「突然チームをつくれ」と言われたときに、どうつくればいいのかわからない。
今、一般論として、いわばハックするかのように短時間で手軽に組織をつくる方法が求められているように感じます。一方で、時間をかけて発酵するかのように、じっくりじわじわとチームをつくることに価値を見出してくれる人がいてもいいのではないでしょうか。
もちろん、緊急で重要な案件に対して短時間でチームをつくるという本質もあるかと思います。トラブルやアクシデントに対応するためのプロジェクトチームをつくるケースがこれにあたるかもしれません。
ただ、短い時間でつくることに価値がある一方、長い時間をかけて成長していくことにも意味や価値があるはずです。
私には娘がいるのですが、中二の長女が通っている私学の中学校は創立120年です。そこには伝統があり、長い時間をかけて少しずつ積み重ねてきた強さや確かさみたいなものがあります。
今すぐどうにかしなければいけない、成果を出さないといけないといったとき、リーダーはあらゆる手立てを次々に打つことがあると思います。しかし、そんなときだからこそ、あえて時間をかけて取り組むことも大事なのではないでしょうか。
たとえば3ヶ月で達成しなければならないことがある一方、それ以上に「3ヶ月後にこのチームがどうなっていたいか」と考えてみる。さらには自分自身がチームづくりを通してリーダーとしてどう成長したいかにフォーカスする人が増えるといいと思います。
リーダーやマネージャーのような管理職は、ついメンバーを管理・統制したくなるものです。「いつまでにどうにかしなければいけない」というお題が上長からおりてきたときには特にそうですよね。
色々な会社に呼ばれてじっと観察していると、自分の思う通りにコントロールしようとしてうまくいかず、ストレスを抱える管理職がたくさんいる一方、すごく楽しそうに仕事をしている管理職は支配的にならずに、今起きている状況をじっくり観察する、という特徴があることに気づきました。
一見すると、「おいおい、大丈夫か?」と、アンコントローラブルな状況になっているようにも見えるのですが、それはアンコントローラブルになっているではなく、部下の能力とか実力を信じて委ねることが上手にできていたり、うまくいかなかった場合の次の策を準備したりしているように見えます。
ーーそれができれば理想だと思いますが、トラブルなどが生じた場合はどうするのかという問題もあります。どうしても自分でやってしまう人は、どうしたらいいでしょうか。
そういう人には、「あなた1人ですべての責任を負わなくても大丈夫だから、一回、勇気を出して手放してみたら?」とアドバイスをしたいです。
誰かに委ねると、その仕事の仕上がりが不安でつい自分でやってしまう人、成果に対する自身への評価が気になって、任せられないという人は、「どうにかしなければ」という不安のあまり、「他者をコントロールして思う通りに動かしたい」という欲求に囚われているのかもしれません。
大事なのは、「ひと」を制御・統制するのではなく、「こと」がうまく運ぶように設計・調節することだと思います。まずはそれを意識すること。
「こと」とは、仕事のやり方や手順などを意味しますが、その人が上手に動けないのはその人の能力や意識・態度の問題ではなく、「その人を取り巻く環境や刺激が十分ではない」という考え方を持つといいかもしれません。

リーダーの4つのスタイル
ーー長尾さんは本の中で以下のようにリーダーのスタイルを4つに分類されています。詳しく聞かせてください。

まずはリーダーを、「押すタイプ」と「引っ張るタイプ」の2つのタイプに分けてみました。
引っ張るタイプというのは、文字通り先頭を走って「俺についてこい」型の人。逆に、押すタイプの人は、みんなのやりたいことを引き出して文字通り後押しする人で、散らばったものをどんどん片付けながら進んでいくイメージです。
さらに、横軸で「成果志向」と「プロセス志向」で分けてみました。仕事はとにかく成果がすべてだという人と、ただ成果を残すだけではなく、その過程(プロセス)も重視するタイプの人です。これは、どちらが優れて/劣って、どちらが正しく/間違っているか、ということではありません。どちらも状況によっては優れていますし、どちらも正しい、という風に考えてみてください。
ーーそれぞれのタイプで得意なものがあれば苦手なものもある。それを相互に補い合うところがチームのいいところですね。
以下のようにチームにも発達するステージがあります。そのステージとは、文字通りステージ、つまり「出番」なわけです。
「吉本新喜劇」でお話の最初から、大御所の池乃めだかさんが出てこないように、お話の導入部分はまだ名の通っていない若手芸人さんたちがワッと出てきて、状況説明から始まったりします。

ーーチームができたばかりの「フォーミング」のステージでは、カオスな状況の中で引っ張るタイプのリーダーが求められると。
どちらでもいいと思います。ですが、このステージは少し強く押したり引っ張ったりする。後押しや牽引する力が必要なステージです。
ただ、意識したいのは、「フォーミング」のステージはメンバーがお互いに依存している他責の状態なので、それは「そういうものだ」として受け入れていきましょうということです。
ーー依存・他責というのは、具体的にはどういうイメージですか。
「上長・リーダーがどうにかしてくれるんでしょ?」「指示を待っていればいいんでしょ?」と思っていたり、内心は「これって絶対うまくいかないな」と思っていたりしても、言えない感じを想像してください。
「よそでも失敗しているのが分かっているのになんでやるんだろう?」と思いながら、「でも、会社が決めたことだし私がどういったところで変わらないし」という感情が働き、誰も何もアクションを起こさないイメージでしょうか。

南ア大会の川口能活の役割
ーー想像できますね。そういうときに、それぞれのタイプはどうすべきなのでしょう。
「フォーミング」のステージで出番が来るのはファシリテーター型の人です。
たとえば、私はFC今治オーナーの岡田武史(男子サッカー元日本代表監督)さんに直接お話をうかがったことがあるのですが、南アフリカワールドカップのときの川口能活選手の役割がそれにあたるかもしれません。
岡田監督はワールドカップ南アフリカ大会のときに、故障を抱えていた川口選手を、
「おまえはコート外で何が起ると、チームが滞ってしまうかを一番知っている。試合には出してあげられないかもしれないけれど、コートの内外でのサポート役としていてくれ」
と、「本大会を戦うチーム」として最終的に結成された、ある意味では「フォーミング」の組織に、強いリーダーシップではなく、メンバーを支援・促進するようなファシリテーター型リーダーの役割を川口選手に託したそうです。
依存・他責の状態で、「誰かがどうにかしてくれる」「監督がどうにかしてくれる」そんな状態の中で、「いやいや、自分たちでやるんだよ」と川口選手がみんなに伝えて回ったり、食事の席を毎日変えたりして同じことをさせない工夫をしていたようだとおっしゃっていました。
ーーまさに今いるメンバーで、ですね。そして、第2ステージのところで、少しずつ役割が変わってくるわけですね。
そうです。これは縦軸がパフォーマンスなのですが、第2ステージの「ストーミング」の状態になるとパフォーマンスが下がります。

というのは、第2ステージとなると、ミーティングや話し合いの時間が増え、メンバーが手を動かす時間が減ります。そうすると手を動かさなくなるので数字も出ず、「成果を残す」という点でのパフォーマンスが下がります。
パフォーマンスが目に見えて下がるから、リーダーが慌てて「話し合っていても仕方がないから、あとは私の指示に従ってくれ」と第1ステージの「フォーミング」な状態に戻してしまうケースがあります。
ーーありそうな感じですね。そのときに我慢することが大事なのでしょうか。
我慢するというとネガティブすぎるので、行動に移しやすいゴールに落とし込んで示すことと、複雑な状況で見えにくくなっている現状をフィードバックし続けることが必要、と言ってもいいかもしれません。
「目指すところはここだけれど、今、私たちここにいるからね」
「なかなか話しがまとまらないね。でも締め切りは1週間後だからね」
と伝えるイメージです。
「使える時間もこれだけで、使える人もこれだけだよ」というのもフィードバックなので、今の状況をすべて伝え続けることができる人が大事です。

ーーフィードバックをやるのに向いているのは、どのタイプですか。
どのタイプもフィードバックはできますが、それぞれのタイプに合ったフィードバックの仕方があります。
ファシリテーター型は、どちらかというとコーチのようなアプローチで、「今どうなっていると思う?」「何が起きているか知っている?」と問いかけることが得意です。
コンサルタント型は、データやエビデンスを見せながら、「今こういう状況です」と現状を的確に分析し、正しい認識を伝えることができる人です。
ティーチャー型は、みんなを集めて「今、みんなで何が起こっているか調べてみようか」というでしょうし、マエストロ型は、今何が起きていてゴールに近づくためには何をすべきか、というレポートを1人で書いてみんなに配ることができるイメージでしょうか。
まず自分が何型かということが分かっていれば、それぞれのタイプに合ったフィードバックの仕方がわかります。
ーー目標の示し方もタイプによって違うのでしょうか。
そうですね。目標の示し方にもタイプがあると思います。たとえば、マエストロ型はプロトタイプをつくっちゃうタイプです。
コンサルタント型は他社の最新の事例を引っ張ってくるのかもしれません。
ティーチャー型は「こういうものが過去にあったから、どこか参考にできる部分を探そう」と文献を探し出してくると思います。
ファシリテーター型は、「自分はこうしたいと思っているのだけど、みんなはどう思っている?」とすり合わせをするかもしれません。
※に続く