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大企業と組むメリットは、資金調達、アライアンス、人材確保

森岡私自身は現在、KDDIの子会社であるSupershipホールディングスの代表取締役をしています。電通も出資している会社で、大企業とうまく組みながら成長しています。

2014年10月に設立され、2015年度の売上高は150億円で、2017年度が274億円。年間の平均成長率は約35%で、赤字は一度も出していません。ただ、これは自分たちの力だけは達成できませんでした。大企業のパワーとスタートアップ企業のスピードを駆使したからこそ 実現できたと考えています。

スタートアップ×大企業であるハイブリッドスタートアップのメリットは、「資金調達」と「アライアンス」、「人材確保」が挙げられます。自分自身、どうすれば企業を最速で成長させられるか考えたとき、このメリットを見つけ出し、フルに活用しようと設立したのがSupershipです。

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スタートアップはまず、資金調達に時間がかかってしまうものです。社長であれば事業計画書を用意し、一生懸命にプレゼンすることに翻弄されてしまい、サービスにフォーカスできません。一方、大企業の力を利用できれば、調達額は多く、調達スピードも速く進みます。

アライアンス面では、私たちがテレビ朝日とジョイントベンチャーを設立できたように、スタートアップではなかなか組めないような企業と組めたときなどは、大企業の信用のおかげと言えそうです。

現在は放送波で流れているテレビ広告も、将来的に通信波で流れるようになるでしょう。インターネットのようにターゲティングした広告が、テレビでも流れるようなイメージです。

私たちもそれに対応すべくテレビ局と組んだわけですが、KDDIの信用があるからこそ、新しい事業も迅速に進められた実感があります。

___July_19_018森岡康一/Supershipホールディングス代表取締役社長CEO

人材確保に関しては、管理会計やセキュリティ、法務といった「守りの人材」の採用で大企業と組むメリットがあります。スタートアップが成長できるかどうかは、コストコントロールが非常に重要。社員が数十人規模ならまだしも、それ以上成長させるには、コストコントロールを可視化できていなければ基本的に伸びないとすら考えています。

私自身、KDDIから人材を受け入れたときに管理ができていなかったと感じたものです。実際に稲盛(和夫)流の採算管理システムはものすごく、かなり細かいエクセルによる週次レポートで、コストコントロールが可視化されています。

それを目の当たりにして、自分がまったく管理ができていなかったと実感させられた一方、すぐに事業の軌道修正もでき、無駄遣いもはっきりわかりました。大きな成長を遂げた企業の予実管理の手法を、起業した初期に身を持って学べたことは非常に大きい経験でした。

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大企業のマインドを知って起業せよ

また、起業には3つの大切な心構えがあります。それが「大企業のマインド・システムを知る」「大きな額の資金運用を知る」「適した仲間を見極める」です。

まず、「大企業のマインド・システムを知る」では、スタートアップが大企業と組もうとする場合にスタートアップ側の心理で提案することが非常に多いからです。大企業側の理屈や心理を理解しなければ、「血気盛んなヤツら」と思われて終わってしまいますから、プレゼンでも相手が動く言葉で話すことが重要です。

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2番目の「大きな額の資金運用を知る」は、資金運用よりも額が大事になってきます。新卒から大企業に勤めている社員は、10億円、100億円という金額に驚きません。100億円があれば何ができるか、想像できるわけです。

一方、何の経験もないままに起業してしまえば、10億円で何ができるかという想像もつかない。これはものすごく大きな差となります。想像の範囲で最大の効果を出せるか、想像できないなかで手探りのまま資金を使うかでは、結果は全く違ってきます。

最後の「適した仲間を見極める」として、仲間を集めるときに信じていい相手と信じてはいけない相手を見極める方法があります。それは相手が自らの経験談を話すかどうかです。

ただ、気を付けなければいけないのが「アレオレ詐欺」をする相手です。世の中に知れ渡っている事業などを、「あれやったの僕です」と語る人は思いのほか多い。なので、失敗談を喜んで話す相手の方が信じられるものです。成功談ばかり話していると胡散臭いと感じますが、失敗談を聞けば相手の経験値もわかってきます。

そして、最も信じられると思えるのが、再現性のある成功を話す相手です。

「あれやったの僕です」ではなく、成功事例をさらに大きな規模、あるいは別の分野で再現できている場合は、ひとつの型が完成していますから、どの分野でも同じこと、あるいはそれ以上のことを再現できるものです。

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できないことは言わないのが信頼の鍵

――ありがとうございました。ここからは森岡さんへの質問を交えながら「ハイブリッドスタートアップ」について深掘りしていきたいと思います。まずはコストコントロールの可視化こそが、スタートアップの成長に大事だという話から。具体的に何のコストを削る、どこの管理が甘いなどの例はありますか。

具体例は交通費と交際費です。売上が上がっていないのに多額の交際費を使っていることが多かったりします。

「これ、何に使っているの?」と聞けば、「営業活動でこれくらい使わないとスタートアップは厳しいんです」と返ってきたりしますが、交際費を使っても売上は上がっていない。そういうときは、「飲まずに儲かるビジネスをつくれ」と言うようにしています。

――お酒ではダメだと。

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たまにはいいと思います。ただ、売上500万円で交際費が50万円というのは考えられません。交通費に関しても「電車に乗れ」と言いたい。社長だからとタクシーばかり乗っている場合も少なくないのですが、これは努力すれば圧縮できるはずです。

経費を毎月確認して先月より低くしようと思うだけで、全体のコストも意識するようになっていきます。その意識が緩いと経営は苦しくなるものです。

――KDDIや電通、テレ朝の例など、大企業と組むときはどのようなアプローチをすればいいのでしょうか。交渉相手がトップか現場の担当者かでも、変わりそうです。

実は、これだけは覚えてもらいたいという秘訣があります。それは「誰と話しているか」、そして「相手がどういうミッションを見ているか」を知ることです。

よくある失敗は、ベンチャー企業の社長が大企業にアプローチをするときに夢を語ってしまうこと。多くの場合は、まず「僕らはこんな世界を目指しているんです」と話し、その次にプロダクトの優秀さを語ります。

「このプロダクトは技術的に素晴らしく、世界を変えられると思っています。ぜひ御社の力を借りて世の中に広げたいんです」と。

そして、最後に「収益はどうなっていますか?」と聞かれ、「まだ赤字です」といったビジネスについて。これは大企業でも、社長相手にだけやっていい流れです。

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実際のところは、アプローチしてからいきなりトップに会うのは難しい。多くの場合は、マネージャーか部長クラスに会うはずです。

実は大企業のマネージャーや部長クラスはあまり夢を追っていないことが多く、重要なのは目の前の数字だったりします。なので、夢を語るのではなく、「このプロダクトを使えば、あなたの成績が上がります。1年使えば利益が5%上がります」といった現実的な話を徹底的にすべきです。

もちろん、事業部長のように相手の立場がさらに上がった場合は、マネージャー相手と同じ話をしても効果がありません。事業部長クラスとなれば、戦略を追う立場になるので、「戦略上、価値があります」という話をすべきです。相手に、「なるほど。これで中期計画が実現できるかもしれない」と思わせる伝え方が大切になってきます。

そして、いよいよ経営陣に会うとなったときは、存分に夢を語ればいいと。

全体としては同じストーリーではあるものの、会う相手とその立場によって、話の力点を変える工夫は必要です。そこをしっかり見極めて話すことが大企業へのアプローチの秘訣と言えます。

――一方で、大企業がスタートアップを口説く場合はどういうアプローチに効果があるのでしょうか。

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資金力があるのであれば、資金を注入すると言うのが最も効果がありそうです。

もう一つ大事なことは、ビジョンの共有だと思います。大企業側が「私たちとしてもこういう考えがあり、御社と私たちが手を取り合うことで明るい未来ができるはず。だからこそ、一緒にやりましょう」と。

とはいえ、約束できないことは絶対に言うべきではないです。大企業は自分たちの権威やパワーを夢見させておいて、仲間に入れてからは「決裁が必要だから」などと言い始めて、約束を果たさないことが少なくありせん。そうなるとスタートアップ側は幻滅して、「騙された」と感じてします。

自分の立場の範囲内でできる約束を先に提示することが大切だと言えます。

――森岡さん自身は、なぜそこまで信頼を集めるのでしょうか。スタートアップで信頼を得るのは難しかったりすると思います。

私自身が信頼されているかどうかはわかりませんが、言ったことをやるという基礎ができるかどうかは大きいと思います。できないことは絶対に言わない。連絡や報告をしっかりするといった、マメな積み重ねがまず1点ですね。

あとは、期待値をあまり上げない生き方が大事なのではないかとも思います。

例えば「行けたら行きます」と口にする人は多いですが、ほとんどの場合はそのまま来ないことが多い。幹事としては、「行けたら行きます」という相手を人数にカウントすべきか困るものです。

いい格好をしようとして期待値を上げても、結局自分でそれを下げてしまうのであれば信用も相対的に下がってしまいます。

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――断るときは率直に断ると。

はっきり断ると相手に悪いと感じてしまうこともある反面、カウントしてもらっても申し訳ないとすれば、「行けない前提で考えておいてください」といった言い方もできます。スタートアップこそ相手への配慮が大事になります。

例えば大企業でのミーティングでも、「俺たちスタートアップだし」とTシャツと短パンで行くところを、着慣れないスーツを着てみたりすることも大事。気持ちはわかるけど、「郷に入れば郷に従え」ということです。

大企業側も「Tシャツ短パンでいいですよ」と言うこともありますが、心のどこかで、「ちゃんと着てきたな」と思い、ホッとする部分があるわけです。そういったTPOへの配慮が、信頼として積み重なっていくと思います。

第2回は

*本イベントの様子は「NewsPicksアカデミア」にてをしております。ぜひご覧ください。