第1回は

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創造性は幸せの自家発電

BIOTOPEの佐宗邦威です。私はデザイン畑出身ではなく、大学時代の専攻は法律、ファーストキャリアはP&Gのマーケティングでした。ここでは、今でいうデータに基づく科学的なアプローチをもとにした、マーケティングを担当していました。

その後、イリノイ工科大学に留学してデザインを勉強し、帰国後はソニーのクリエイティブセンターで新規事業を担当しました。そして現在は戦略デザインファームBIOTOPEを立ち上げ、さまざまな企業の未来創造やイノベーション支援をしています。

もともと法律を専攻していたのにデザインと名のつく会社を起業した私は、ビジネスの世界からデザインの世界に入ったという意味で、先ほどの石川さんとは逆パターンかもしれません。

最初に結論から申し上げますと、ビジネスからデザインをはじめとするクリエイティブの世界に転向して学んだことを、ビジネスマン時代の自分にひと言で伝えるとしたら、「ビジョンドリブン=妄想駆動」で生きることの大切さです。そこで今日は、これについてお話しします。

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まず私自身のビジョンと課題意識から始めます。

「もしも、大人が創造的に生きるための支援を通じて、すべての子どもがもつ創造性を阻害しない社会を作れたら。創造性を民主化することを通じて、いかに、AI時代に少しでも多くの人が自己効力感を感じて生きる社会を作れるか?」というのが私のライフテーマです。

イノベーション支援をしていると、現場にアイデアはいっぱいあるのに、それを形にする段階でつぶれてしまうことがよくあります。今の常識に合わせて考えると、それは大人たちによって途中で削ぎ落されてしまう(笑)。

ここでは「大人≒常識」と考えてください。大人が悪いのではありませんが、大人になった私たちの「常識」が、今までになかった新しいタネを殺すのです。

これは子どもの教育に関しても、同じことがいえるでしょう。子どもはすごく繊細で、新しいことが起こるとすぐに感じ、反応できる感覚をもっている。しかし大人がそこで常識を言ってしまうことで、子どもも次第にオリジナリティを失い社会に染まってしまうのです。

常識が創造性を壊すプロセスは、ビジネスでも社会でも、そして家庭でも、起こっているのではないでしょうか。

_04A9773佐宗邦威/BIOTOPE代表

しかし一方で、ビジネスが社会に与える影響は大きく、ここが変われば政府も動き、教育現場にも影響をもたらします。だから私がビジネス現場を創造的に変えていくことで、子どもの世界にもいい波を届けたいと思っています。

では、なぜ創造的であることが大事だと思っているのか。それは、創造的な生き方ができると、誰にも迷惑をかけずに自己効力感を感じられるからです。

これは私がデザインの勉強をして感じたことですが、何かを考えながら形にするのは、ものすごく楽しいです。没頭できるし、自分自身が満足します。しかも、誰のリソースも使わない。創造的であることは自分自身で幸せを作る方法であり、持続可能性もあるんですね。

誰もが自分のイメージを形にすることができ、多くの人が自己効力感を感じられる社会へのシフト。これは結局、限られた資源を巡って争う人間の本性から考えても、争いが減ることにもつながるのではないでしょうか。

難しく考えなくていいんです。料理をする、農作物を作るなど、広い意味で「作り手」になればいい。自分で自己効力感のエネルギーを発電することです。この自己効力感を少しでも広く社会に波及させたいというのが、私のビジョンです。

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イノベーションには狂信的な妄想家が必要

こうしたビジョンを実現するために役立つのが、デザイン思考やビジョン思考です。

これまで、色んな新規事業に関わってきて感じるのは、イノベーションが起きるときは必ず、一人の狂信的ともいえる妄想家がいるということです。熱狂的に「やりたい」という思いをもった人ともいえるでしょう。

ソニーのプレイステーションを生んだ久夛良木(くたらぎ)健さんは、その典型的な例です。はじめは箸にも棒にもかからない、「ありえないだろう」といわれた技術を15年近くかけて実現した。社内の大半がゲーム事業に難色を示す中で、彼の熱意がなければ開発は中断していたはずです。

イノベーションが生まれるプロセスには「0→1」「1→10」「10→100」「100→無限大」と、各段階があります。私自身もソニーで新規事業の創出に関わり、「0→1」の後の「1→10」で、色んな分野の人が共創することの大切さを感じました。

saso_pp 佐宗氏の講演資料より

ある一人の人が考えたアイデアが、どうすれば世の中に広がるか。その答えを他の人が見つけたときに、チャンスが広がります。そうした共創を支援する方法論がデザイン思考です。

とはいえ、「0→1」がなければ何も始まりません。「0→1」のためには、「独創力」が必要です。石川さんの言葉でいうと主観ですね。

「今は世の中にないけれど、自分はこういうものが必要だと思う」という、根拠のない思い込みの世界です。

「1→10」以降の方法論は、世の中にいっぱい出ていますが、まだ根拠のない柔らかいものをどう育てるかという「0→1」については、意外にみんな知らないのではないでしょうか。

「0→1」ができるかどうかは個人の資質によるところが大きく、孫正義さんやイーロン・マスクならできる。でもそれは遠い人の話だ、と多くの人は思うでしょう。でも私は、そうではないのでは?と問いかけたい。

独創力といえば、天才的な人がイノベーティブなことをパッと思いつくイメージがあるかもしれませんが、そうではありません。不安なものを口にして、それを確信に変えるまでひたすら壁打ちが必要なんです。逆にいえば、訓練すれば誰でも独創力をもちうるということ。

実際に、企業のプロジェクトとしてイノベーションを起こすには、狂信的な一人を作らなければいけませんから、独創力を支援するための共創もまた、必要とされるのです。

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図解「ビジョンのもとに生きるには」

それでは、どうやって独創力を育むかですが、この絵をご覧ください。自著『直感と論理をつなぐ思考法』に載せたものです。

saso_mountain佐宗氏の講演資料より

世界が上下に分かれていますが、下は一見役に立たず自分にしか見えない価値を育てる潜在意識の世界で、「ビジョンのアトリエ」と名づけました。上は、目に見える価値を見、人の役に立って生きる現実世界です。われわれは常に、この中のどこかを往復しながら生きています。 

上の世界は、4つに分断されています。まず「カイゼンの農地」は、PDCAを回して、経験を積み上げて前年比をよくしたり、効率を上げたりする世界。法律の勉強をしていたときの私の居場所はここでしたが、誰かに合わせる世界なので、ずっといると飽きてしまう。

じゃあここから移動しようと思って「リスクテイキングの溝」にかかる「出世の橋」を渡ると、「戦略の荒野」にたどり着きます。ここは場所を取り合う競争の世界です。

荒野には「体制の連峰」があり、上に登るほど見晴らしがよくなるので行きたくなるのですが、行くと疲れ、何のために戦っているのかわからなくなります。

実際に私も、ここに登った後にうつ状態になり、一度、地下に潜っています。

少し休んで地下から戻ってくると、「デザイン思考の橋」があるのを発見しました。これを渡ると、今まで見えなかった「デザインの平原」に着きます。石川さんの言葉でいう右脳の世界ですね。

ここは平原で、色んな生き物が一緒に価値を作る世界。「デザイン思考」のエリアともいえます。でもその中には「クリエイティブの塔」があって、美術を勉強した人が「あれは本物のデザインではない」なんて言うこともあります。

その向こうには「人生芸術の山脈」があって、ここは自分のビジョンを形にする世界です。

ここにBIOTOPEを作りたいと思ったのですが、そこに行くには「有用性の激流」があって、渡るのはなかなか難しい。つまり、「誰かの役に立つため」という価値をもつだけでは、ビジョンの世界に行けないのですね。

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そして独創力を養うのは、地下にある「ビジョンのアトリエ」です。ここには「妄想」「知覚」「組替」「表現」の4つの部屋があります。

まず「妄想」の部屋は、自分が本当に心からワクワクしてやりたいこと、欲望に向き合う場所です。次は「知覚」の部屋で、その解像度を上げる。自分のイメージを可視化します。

次は「組替」で、自分なりの新しい切り口で組み替えます。最後は「表現」で、自分の世界観やビジョンを、アートでもポスターでも本でも、何かしらの方法で表現する。

このステップを1回ぐるっと回すと、ここに小さな山が出現します。これを何度も繰り返していくと、いつの間にか少しずつ山が高くなってきて、上の世界の「人生芸術の山脈」につながる。

ここがいわゆる「ビジョン思考」のエリアで、今までになかった楽しい世界を形にする道を突き進んだ先に、たどり着くことができるのです。

私自身、法律の世界、戦略の世界、デザインの世界と生きてきて、今は起業をし、本を書いたりして自分の生き様を世の中に問いかけているという意味では、アート的な山にも登り始めています。

どうやったら自分のビジョンのもとに生きていけるんだろうと考えたときに、これまでの経験をもとにして、この絵を描きました。

目に見えないものを信じようにも、まぶしい現実世界に生きているだけでは、つい現実に流されてしまう。しかし、ビジョナリーな人(先見の明がある人)は、一度は落ちた経験のある人が多い。

ということはむしろ、落ちた世界の先にこそ、ビジョンのアトリエが待っているのではないか。そして人生芸術の山脈には、その地下世界からしか行けないのではないか、と気づいたのです。

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妄想を堂々と口にする力

デザイン思考は、ユーザーの課題に共感し、そこに分析や実行を加えながら形にしていく課題解決プロセスです。

これ自体はとても大事ですが、ビジネスマンとって、デザイン思考だけでは十分とはいえません。重要なのは、その前段階で主観、つまり妄想があること。妄想にアクセスし、知覚し、組み替え、表現するサイクルを繰り返しながら、今までになかった価値を形にする。これがビジョン思考です。

こうした思考をすると、必然的に「なぜ」を考えるようになるので、次の段階であるデザイン思考も、スムーズにできるようになります。

またビジョン思考は、根拠のないものを「これでいい」と言い切る力でもあります。

私があえてビジョンという単語を「妄想」と訳しているのは、海外で「この人、すげービジョナリー(先見の明がある人)だ」と思う人はたいてい、「妄想ともいえる大きな話を当たり前のようにしている人」だったりするからです。

それは日本語でいうと、証明されていないもの。われわれの感覚からすると、根拠のないことを口にするのは、社会人としてはばかられます。

しかし言ってしまったら、案外そこから具体化が始まります。妄想が実体のある物になり、物になるからビジネスにもなり得る。認められたという自己肯定感にもつながります。

自己肯定感が上がるとモチベーションが上がるから、仕事が楽しくなってどんどん課題解決ができる。イノベーションの好循環が生まれるのです。

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初めは恥ずかしいし難しいと感じるかもしれませんが、自分を信じて、妄想を堂々と世の中に出すこと。この訓練を積むことによって、創造性が世の中に広がっていくんじゃないかと思います。

サッカー日本代表元監督の岡田武史さんの言葉に「夢を語れば無形資産が集まる。無形資産が集まれば有形資産が動く」というものがあります。

今、大人が夢を語ったり希望あふれる未来について話したりする機会がすごく減っています。でもNewsPicksのような場には、楽しい妄想を形にできる人が集まっていると思うので、今日のこの講演が、「ビジョンドリブン=妄想駆動」で生きるためのきっかけになれば幸いです。

第3回は