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右脳と左脳、両面からイノベーションを

石川俊祐です。簡単に自己紹介をすると、IDEO(アイデオ)というデザイン・コンサルティング会社の東京オフィス立ち上げに関わり、その後、ボストン・コンサルティング・グループのBCGデジタルベンチャーズに移りました。

そして今年の3月から仲間とAnyProjectsという会社をスタートさせ、デザイン思考を軸にさまざまなプロジェクトに取り組んでいます。

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デザイン・イノベーション畑の私が戦略系コンサルファームのBCGに転職したのは、右脳と左脳の世界を両立させるメソッドを試したいと思ったからです。

デザイン会社IDEOの強みであるコラボレーションやイノベーションを創出した後、その次のフェーズであるインキュベーションからコマーシャライゼーションまでを、やり切りたい思いがありました。

そこで、いわゆる左脳的な、または論理的思考が強いであろう戦略コンサルではどうやっているのだろう?と見てみたかったのです。

もちろん、「デザインが右脳でビジネスが左脳」と簡単に分けられるものではないですが、デザインとビジネス、クリエイティビティがどうやって融合するのかを実験してみたいというのが、私の思いです。

_04A9709石川俊祐/AnyProjects Founder

AnyProjectsでは「ユニークで、強く・優しく、魅力的で、持続可能な価値を生み出し、より幸せな世の中にしたい」と掲げていますが、これを実現するためのさまざまな思考法や戦略が、世の中にはあふれています。そのアプローチ手段のうちの一つが、デザイン思考だと私はとらえています。

では、どのようにすればイノベーションを生み出し続け、サステイナブルになるのかを考えていきます。

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デザイン思考は「問い」から始まる

デザイン思考でイノベーションを生み出すために、何が大切なのか。それは「問い」「主観」「共創」の3つだと思っています。

1つ目の「問い」について、わかりやすい例をお話ししましょう。

2002年から2003年頃まで、私はパナソニックでCDやMDを入れて音楽を聴く、ミニコンポのデザインを担当していました。

防音が施されノイズの全くない音響室に閉じこもり、どれだけいい音質が出るか、他社製品と比べて「こっちのほうが高い音が出るね」などという開発風景です。

iStock-537487629Photo by i-Stock/alacatr

でもふと「でも、誰がこんなノイズのない環境で音楽を聴くんだ?」と疑問が湧いてしまいました。それ以降、「デザインって、そういうことじゃないんだろうな」と思いながら仕事をしていました。

そうこうするうちに、iTunesやiPodがポンと発売されました。あれだけ必死に作っていたオーディオ関連の商品群が、わずか数年のうちにほとんど必要とされなくなってしまったのです。

私たちはすでにリソースとして、家電量販店で売るチャネルを持っていました。そのチャネルの中で、「どんなテクノロジーや技術を使って、どれだけ音を良くするか」と他社と競っていたのですね。

しかしその間にチャネルの外では、「そもそも、音質にこだわる人って、どれくらいいるんだっけ?」という本質的な問いが生まれていて、人間の潜在欲求は、音質よりも音を探せることや曲の量のほうへ移っていっていた。

新たな問いを立てずに(ある意味ユーザーを無視してしまい)テクノロジーとビジネスを行き来していると、いつのまにか全然別の誰かが、人間の潜在的欲求に刺さるものを作り、市場が丸ごと入れ替わってしまうこともある。

この件は、それを象徴的するできごとでした。

もう一つ例を挙げましょう。「新しいオフィスをデザインしてください」と依頼されたら、普通はオフィス内の意匠や植栽、動線の効率化などを考えますね。

でもそこで「オフィスって、そもそも何だっけ?」という問いを立てることが大事です。

WeWorkのようなイノベーションは、そうして生まれたのではないでしょうか。

このように、問いを立てて「そもそも、これはどういうことだっけ?」と考えなければ、他社を超えていいものを生み出すのは難しい。各社が半年差くらいで同じようなサービスをリリースするのは、戦略的な考え方をしているからです。

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「~したい」が新しいものを生み出す

その「問い」を立てるうえで大事なのが、2つ目の「主観」です。主観とは「なぜなら~したい」という気持ちです。

そもそもデザイン思考は、この図のように「発見して」「結晶化して」「アイデア、コンセプトにして」「作る、伝える」というプロセスをたどります。

ishikawa_draw石川氏の講演資料より

ここでとくに大切なのが「発見して」「結晶化する」プロセスです。なぜなら、課題について自ら探求・発見することが問いや意志、自信につながり、それが「~したい」という主観を作り上げるからです。

その最たる例が、私がかつて経験した、あるチョコレートのプロジェクトでした。

そのプロジェクトでは、チームの方々がやってきて、最初は「100円が200円に見えるパッケージにしてほしい」と言いました。

「それならグラフィックデザイナーを紹介しますよ」と言うと、「いえ、できれば皆さんと仕事がしたいです」と言う。

問いが違うと思ったので考え直してほしいとお願いすると、しばらくしてチームの皆さんが戻ってきて言ったのが「チョコレートの消費量を上げたいんです」。

ちょうどその場にIDEOの創設者であるデイビッド・ケリーがいたのでその話をしたら「では、チョコレートの箱の内容量を3~4粒増やしたらどうなんだ?」と彼が言うと、皆さんは「もしかしたら、単に消費量を増やすことではない気がします……」と、腑に落ちない様子です。

その後、もう一度問いを考え直してきてもらった時に、戻ってきたチームの皆さんはこう言いました。

「われわれは、カカオが健康にいいと確信しています。自社農園も持っているし、パッションをもって製品を作っている。でも日本にはまだ、チョコレートを消費する文化がない。もっとカカオの良さを知ってもらい、大人、とくに男性もチョコレートを食べる文化を作りたいんです。かつてチーズやコーヒーが日常の風景になっていったようにチョコレートも日常に溶け込ませていきたい」。

このようにチームの皆さんは、自分たちで何度も探求を繰り返すことで「~したい」という主観を発見したわけです。

iStock-1041482510Photo by i-Stock/Muzyka Daria

ここに行きついたからこそ、パッケージデザインではなく「チョコレートを食べる体験」をデザインしなくてはいけないことに気づいた。

そうして「どうすれば消費者とのタッチポイントを増やせるか」と考え、バーでワインとペアリングするとか、飛行機に乗ったときに出てくるとか……と戦略が広がっていきました。

その後、このチョコレートプロジェクトが成功を収めたのは、皆さんがご存じのとおりです。

なぜ主観が大事かというと、新規事業はすごく大変なので、「100円を200円に見せるパッケージを作ろう」だけではモチベーションが続かないからです。

チームで「~したい」という主観を共有してこそ、「いいものを作ろう」と思いの連鎖が起こり、新しいものを生み出せるのです。

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“放牧”的ゆるやかさがチームの鍵

デザイン思考でイノベーションを生み出すために大切なことの3つ目は「共創」で、私たちはそれを「自由になれる場と空気とリズムを作る」と言っています。

リーダーが「〇〇しなさい」と言うよりも、ゆるやかなガイドラインやちょっと先のことを見せて、自分たちで進められる環境を作ると、チームにいいリズムが生まれ、力が発揮しやすい。イメージとしては、放牧のようなチーム作りをしています。

といっても、ただ放っているわけではありません。プロジェクトのキックオフや中間報告、週ごとの共有など、放っておけるための「仕組み」を作っています。

非常に極端な分け方をしてしまうのですが、IDEOで右脳的(感性的)、BCGで左脳的(論理的)な世界の両方を体験してたどり着いた結論は、「メッシー(散らかった)な思考と創造が繰り返される実験的環境からこそ、イノベーションが生まれる可能性が高い。そして、それを新しいアプローチ・空間づくり・チーム体制にすることができるのではないだろうか」ということでした。

そのためにAnyProjectsでは、企業や学者、クリエイターや投資家ともつながるエコシステムを作っています。さまざまな属性の人が集まり、扱う分野もチョコレートから宇宙までと幅広いので、各チームで「問い」「主観」「共創」の3つを大切にしながら、プロジェクトに取り組んでいます。

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第2回は