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2M+3Mで組織を考える

私たちリンクアンドモチベーションでは、組織を考えるときに「5M」というフレームワークを用いています。

ST_4036リンクアンドモチベーション取締役 麻野耕司

上位概念が2つあって、1つは商品市場において顧客から選ばれるための方針を示す「Message(事業戦略)」です。もう1つは「Motivation(動機形成)」で、これは労働市場から人材に選ばれるための組織文化に当たります。

この外部適応と内部統合を示す2つのMがリンクしてバランスが取れていることが重要で、それが組織づくりで目指す最終的なゴールになります。

その実現の手段となるのが3つのMで、理念の策定から組織編成に至るまでの「Mission(役割設計)」、人材採用や育成、配置といった「Membering(人材開発)」、等級・評価・報酬などの人事制度を示す「Monitoring(管理制度)」です。

私はこの5Mの観点から、皆さんの組織づくりのヒントとなる人事・HRの必読書を選んでみました。

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キャリアの基礎をつくった本、 キャリアを高めた本

まず、5Mで最も重要な事業戦略と動機形成をどうつなげていくかを考えるうえで絶対に外せないのが、チェスター・バーナードの『経営者の役割』です。

本書が世界の組織論の潮流を変えたと言っても過言ではありません。それまで主流だったフレデリック・テイラーの科学的管理法やマックス・ウェーバーの官僚制組織といった組織論では、生産効率を追求するための内部統制に重きが置かれていました。

そこに、外部と適応していく事業戦略と動機形成による能率追求という新しい視点をもたらしたのが本書です。

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私は新卒でリンクアンドモチベーションに入社した際、本書を課題図書としたレポートに真剣に向き合ったおかげで、「組織と個人の幸福を最大化する」という自身が仕事をするうえでの目的を明確にすることができました。皆さんにもぜひとも読んでいただきたい1冊です。

同様に、事業戦略と人事戦略の重要性を説き、その2つがどう結びつき、どのようにリンクさせていけばいいのかをよりロジカルに示しているのが、波頭亮さんの『組織設計概論』です。

理想の組織を考えるとき、すべての組織に通じる絶対的な解を求めがちですが、本書を読むと、それぞれの事業に相応する組織づくり、最適解を見いだすことが重要だということがわかります。

私が組織人事コンサルタントとして、当時急成長していた事業形態の異なる2社を担当していた際に、それぞれの成功の理由を読み解くのに大いに役立った書です。本書を読んでその2社をサポートした経験が、どんな経営者と相対しても議論できるレベルにまで、私のキャリアを高めてくれたと思っています。

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動機形成に落とし込む

3Mの「Mission」の役割設計に特化しているのが『組織デザイン』です。「組織とは何か」という定義から、フラット型、ヒエラルキー型といった組織編成のメリット・デメリットを明確に教示しています。

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マッキンゼー・アンド・カンパニーの『ウォー・フォー・タレント』は15年以上前に出版された書ですが、「タレントプール」など現在のソフトビジネスの時代を予見した労働市場での勝ち方がすでに記されています。出版当時に読んだ時はあまり腑に落ちていなかったのですが、今改めて読むと、その先見の明に感心します。   

人材開発を合理的かつ実践的に論じているのが、立教大学・中原淳教授の『企業内人材育成入門』。人事担当者は本書はもとより、中原先生のブログ「NAKAHARALAB.NET」も必見です。『職能資格制度』も人事制度を正しく知るには読んでおきたい1冊ですね。

事業戦略や役割設計、人材開発、管理制度を動機形成に落とし込んでいくときのヒントとなるのが、リクルートで最も人事に精通した海老原嗣生さんの『無理・無意味から職場を救うマネジメントの基礎理論』、ダニエル・ピンクの『モチベーション3.0』です。

さらに『The Employee Experience』を読むと、モチベーションの延長線上にあるエンプロイー・エンゲージメント(企業と従業員の相思相愛の度合い)からエンプロイー・エクスペリエンス(従業員の経験)へという時代の流れを押さえることができます。

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5Mを体現している事例としては、最も思い入れのある『リクルートのDNA』と、当社の「ベストモチベーションカンパニーアワード」で12年かけて1位を獲得した、ライフルの人事本部長・羽田幸広さんの『日本一働きたい会社のつくりかた』がお薦めです。

そして、最後に挙げたいのが『エンジニアリング組織論への招待』。本書はテクノロジーとは縁遠かった私が、2016年に組織改善クラウドサービスの「モチベーションクラウド」を立ち上げた時に、非常に参考になった1冊です。デジタル化がますます進んでいく今後の組織づくりに大いに役立つと思います。

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Book List

[戦略から学ぶ]

 C・I・バーナード/著 山本安次郎、田杉 競、飯野春樹/訳 ダイヤモンド社

今の働き方改革は、労働時間の短縮適性化など個人に拠った論調が目立つが、それで組織全体の成果は担保できるのか。事業と組織人事を分断して捉えている人事・HRが多いことも一因だろう。本書を読んで、組織づくりも働き方改革も、事業戦略と人事戦略の両輪で考えるべきという原点に立ち返っていただきたい。

 波頭 亮/著 産業能率大学出版部

マッキンゼーでは企業戦略と人事戦略の相関を定義した「7S」があるが、同社出身のコンサルタント・波頭亮さんはそれを「Structure(組織構造)」「System(制度)」「Staffing(人材配置)」の「3S」に落とし込み、個々の施策がどう事業戦略とリンクするのか、細かく丁寧に解説している。読めば組織人事の全体像がつかめるだろう。 [組織編成]

 沼上 幹/著 日本経済新聞出版社

組織形態の基本形を明確に定義し、メリット・デメリットをわかりやすく教示した書。組織編成に対する理解の現状を見ていると、ティール組織やホラクラシーなどの流行りをやみくもに取り入れて失敗する企業が出てくる懸念があるが、本書で組織編成の本質を理解すれば防げるはずだ。

 エド・マイケルズほか/著 マッキンゼー・アンド・カンパニー、渡会圭子/訳 翔泳社

02年の出版だが、今改めて読んでも新しい気づきがある。労働市場で圧倒的な勝ち組となっているメルカリでは、全社員がリクルーターの役割を担っているが、その組織編成論のバックボーンとなっているのが本書。同社の小泉文明社長ともよく本書について語り合っている。

[人材育成]

 中原 淳/編著 荒木淳子、北村士朗、長岡 健、橋本 輸/著 ダイヤモンド社

日本企業は研修に多額の費用を投じているが、既存の研修で期待できる成長はごく限られたものでしかない。その研修をどう捉え、現場に生かしていくかが大事。中原淳著『「研修転移」の理論と実践』もお薦めだが、本書はその入門編として、人材育成の本質を理解するのに役立つ。

[管理制度]

 楠田 丘/著 経営書院

版を重ねている名著。人材採用や育成、労務の知識はあっても、人事制度の正しい知見がある人は意外と少ない。例えば「職能等級」と「職務等級」の違いをロジカルに説明できない人は、本書で人事制度の理解を深めてほしい。人間を何によって管理すると一番成果が上がるかを解説。

[モチベーションを高める]

 海老原嗣生/著 プレジデント社

リクルートのナンバー2だった大沢武志さんが、アカデミアの知見を徹底活用することで具現化してまとめた名著『心理学的経営』。現在は絶版となっているが、その遺志を継いで出版された同書を読めば、そのエッセンスを余すことなく理解できる。何十冊もの本を読むほどの価値がある1冊。

 ダニエル・ピンク/著 大前研一/訳 講談社

「成果を出したら、ボーナスを与える」といった交換条件つき報酬の動機づけはもはや機能しなくなっている。新しい時代のモチベーションの源泉となるものは何か。著者は「自律性」「熟達」「目的」がその要因として機能すると説く。古い価値観を引きずるリーダーの意識改革に役立つ書。

Tracy Maylett, Matthew Wride/著 

日本では「エンプロイー・エンゲージメント」に着目する企業が増えているが、米国では「エンプロイー・エクスペリエンス」にステップを移している。これは従業員の目線でいつ、どんな体験をしたら、意欲や成長につながっていくのかを考えるものだ。今後は、時間軸での体験が重要なカギとなる。 [事例]

 江副浩正/著 KADOKAWA

「5M」の事業戦略、動機形成、役割設計、人材開発、管理制度を、見事なまでに具現化し、そのすべてをリンクさせているのがリクルートだ。創業者の江副浩正さんは特に人材採用を重視し、優秀な人材がモチベーション高く働く仕組みをつくった。OBたちもそのDNAを受け継いでいる。

 羽田幸広/著 PHP研究所

成功している企業には強烈なカラーがあるため、「自社ではとても真似できない」と感じる人事担当者も多い。不動産情報を提供するライフルの人事本部長による本書ではオーソドックスな施策を地道に積み上げ、「日本一働きたい会社」へと成長させた組織変革の軌跡が記されている。

[エンジニアの組織づくり]

 広木大地/著 技術評論社

デジタル化が進む中、どの企業もテクノロジーの波を避けられないが、エンジニアがいる組織のあり方を書いた本はなかなかない。本書は組織におけるエンジニアリングの課題や解決の手法を、天才エンジニアの広木大地さんが自身の経験や社会科学の知見からわかりやすく解説している。

(本記事は「NewsPicks Magazine Vol.2」からの転載です)

*麻野耕司氏がこれからの望ましい組織像について語ったNewsPicksアカデミアのイベント「働き方3.0」(2019年8月7日開催)は、にて視聴可能です。