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会計とファイナンスは別物。ただし会計の知識も欠かせない

私はファイナンスの専門家ではありません。投資銀行の出身者でもなければ、大学でファイナンスを研究している学者でもない。ガチガチの投資家でもありません。

学生時代にベンチャー企業を立ち上げ、新卒でコンサルティング会社に入り、再び自分が立ち上げた会社に戻って、会社を売却。その売却先の会社で再建に取り組んだという経歴の持ち主です。

この経験を通して学んだことの1つが、ビジネスにおけるファイナンス的な考え方の重要性です。

朝倉祐介

ビジネスの現場では1人で決算書を作り、企業の価値を見積もり、契約書を作って……とやっているわけではありません。経営者自身がExcelで財務3表のモデルを組めるのであれば、それに越したことはないですが、その必要性はない。企業価値の見積もりも同様です。専門家に任せておけばいい。

ただし、背景にあるファイナンス的な考え方が理解できていないと、トンチンカンな経営判断を下してしまうことがあるのです。

ビジネスに関して学ぶべきテーマは多岐にわたります。マーケティングも組織論も重要な知見でしょう。

でもファイナンスは別格です。コアとなるものです。経営のスキルといった側面が強調されがちですが、同時に会社経営のルールでもある。ビジネスを回そうと思ったら、最低限、ひと通りのファイナンスの知識を持ち合わせていないと話になりません。しかも、このことに気づいていない経営者がとても多いのが実情です。

人は必要に迫られないと何事も身につかないものです。私も走りながらファイナンスとその重要性を学んできました。

ファイナンスの理解に役立った最初の1冊が『財務3表一体理解法』です。社会人になってすぐ、投資対象企業の財務分析、事業分析をするデューデリジェンスのプロジェクトに組み込まれます。ところが研修で学んだ通り一遍の会計知識では用を成さない。これではまずいなと思って手にしたのがこの本です。

財務3表

「会計・ファイナンス」と一緒にくくられることも多いのですが、両者は明確に別物です。ただ、会計を理解していないとファイナンスの理解も進みません。この本は会計の入門書です。PL(損益計算書)、BS(貸借対照表)、CF(キャッシュフロー)計算書がどうつながっているのかを、大まかにつかむことができました。

この頃を振り返ると、BSの意味合い、つまり手元の資産をどう組み替えて事業を大きくしていくかといった経営の発想はよくわかっていませんでした。わかっていないことがよくわかったのが、創業した会社に戻ったときです。

小さな会社ですから資金繰りから何から自分でやらなければならない。大企業向けのノウハウだけで事業は回せません。

参考になったのが『起業のファイナンス』です。ファイナンスの教科書には企業価値の計算方法は出ていますが、実際の資金調達の方法や契約の結び方、付随する法律の意味なんかは書いていない。この本にはそういったことが事細かく書いてあります。経営者としてベンチャーキャピタルと丁々発止するなら、最低限、知っておくべき内容です。

「僕はエンジニアだから関係ない」なんて言っている人も、自分で事業を回すなら知っておかなければならない。知らないと相手のいいようにやられてしまうし、それが後々、経営の足かせになることもあるのです。

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ファイナンスの「考え方」を知る

朝倉祐介_本

スタートアップを回していたこの頃から、ファイナンス的な考え方の重要性を強く意識するようになりました。『起業のファイナンス』は役には立ったのですが、スタートアップというニッチな領域の解説です。

もう少し広くファイナンス的なものの考え方を知りたいと思って手にしたのが『ざっくり分かるファイナンス』です。内容は本当にざっくりとした概論ですが、経営者を含めて専門家以外の人は、ざっくりでいい。ファイナンスの大まかな方向性をつかむことができれば十分だと思います。

その後、会社を売却しますが、この時、会社の値づけの仕組みをもう少し理解したいと思い何冊かの本を読みました。その中で良かったのが『MBAバリュエーション』です。自分が売却したような規模のスタートアップの場合、そのポテンシャルはわかりません。増資にせよ売却にせよ、値決めは「エイヤッ」て感じですることが多いし、それでいいと思います。

では、ある程度仕上がった会社の価値を理論的に突きつめるとどうなるのか。この仕組みを理解するのに役に立った本です。ミクシィで企業を買う側に立ったときにも参考になりました。

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極論ですが、会社は利殖マシンです。他人から預かったお金を回して利益を上げて還元するための組織です。「黒字だから問題ない」と言う経営者はたくさんいますが、それは誤りです。投資家が期待するだけのリターンを返せていない経営者は失格なのです。

一方、利回り2%の社債を買う資金を金利10%で借りるのが愚かなことは誰でもわかるでしょう。ところが資本調達コストという発想がない経営者の中には、平気で同じような経営判断を下す人がいます。

どちらもファイナンス的な考え方ができていない。ルールを理解せずに会社を経営しているようにしか見えません。

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投資家の視点を学べる本

投資家の期待に応える利益を上げるにはどうすればいいのか。私も会社が厳しい時期にずいぶん悩みました。

そんな時、手にしたのが『稲盛和夫の実学』『利益が見える戦略MQ会計』です。どちらも管理会計の本ですが、なんとか儲けの構造を可視化できないかと考えたのです。実際の経営課題に応用できる部分、できない部分は当然ありますが、事業からキャッシュを稼ぎ出すのに役に立つはずです。

稲盛和夫『実学』

経営者の立場からすれば、長期で株を持ってくれる投資家は絶対に裏切ってはいけない存在です。彼らが期待するリターンで報いなければならない。それがルールです。

投資家がどんな考えで会社の舵取りやファイナンスを評価しているのか。事業の現場にどっぷり漬かっているとわかりにくいのですが、投資家の視点を知ることも重要です。

投機的な株の売買、目先の配当や自社株買い要求など、短期的には経営者と利害が衝突するような場面もあります。株価対策のためだけに奇抜なプレスリリースを打つことも本質的な経営とは言えないでしょう。長い物差しで見て企業の価値を増やしていくことが経営者、投資家が共に目指すべきことだと思います。

思慮深い長期投資家が企業ファイナンスのどこを見ているかは、経営者として知っておくべきポイントです。参考になりそうな本として、『史上最強の投資家バフェットの教訓』『投資される経営 売買される経営』の2冊を紹介しておきます。

朝倉祐介選書

最後にお薦めしたいのは『破天荒な経営者たち』。桁外れに、しかも淡々と、企業価値を高めた経営者8人の手法を学ぶことができ、読み物としても楽しめます。

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Book List

[財務会計]

 國貞克則/著 朝日新聞出版

新卒で入ったマッキンゼーで会計の研修を受けていた時、「会計のことをもう少し理解していないとまずいが、どこから手をつければいいかわからない」と思って手にしたのがこの本。損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書のつながりを、ざっくり理解できる。

[起業]

 磯崎哲也/著 日本実業出版社

資金調達からイグジットまで、スタートアップのファイナンス活動をまとめた本。ファイナンスの中でもニッチな分野だが、自分で事業をやるならば最低限、これくらいは押さえておくべき。マッキンゼーを辞めて自分が設立したネイキッドテクノロジーに戻った時に手に取った。

[コーポレート・ファイナンス]

 石野雄一/著 光文社

ベンチャー企業を実際に経営してみて、ファイナンス的なものの考え方の重要性を感じ始めた時に手に取ったのがこの本。本当に「ざっくり」した内容だが、ざっくりでいいと思う。「ファイナンスの大まかな方向性って、要はこういうことね」ということを理解するには十分。

 石野雄一/著 石野人衣/作画 ダイヤモンド社

『ざっくり分かるファイナンス』をとっつきやすくマンガにしたイメージ。ファイナンスの入門本としては『ざっくり~』もわかりやすい部類に入るが、もっとラクにざっと理解したいなら、こちらの本を読んでもいい。「そもそもファイナンスって何?」というところから易しく教えてくれる。

 森生 明/著 日経BP社

会社をミクシィに売却した頃、「会社に値段がつく仕組みをちゃんと理解しておいた方がいいかな」と思って手にしたのがこの本。実際、スタートアップ企業の価値は「エイヤッ」で決まることの方が多いが、仕上がった会社の場合はどうなるのかを、論理的に理解するために役立つ。

[管理会計]

 稲盛和夫/著 日本経済新聞出版社

会社の業績が厳しくなったときには各事業を細分化し、それぞれが売り上げや利益にどれだけ貢献しているのかを把握する必要が出てくる。「アメーバ経営」を解説した本書の内容はかなり難しいが、管理会計の考え方を学ぶためには重要な本。ミクシィの再建中に手にした。

 西 順一郎/編著 宇野 寛、米津晋次/著 かんき出版

『稲盛和夫の実学』の勘所を単純化して、どうすれば利益が出るのか構造を明示している。売上高を伸ばす以外にも、売上高を減らして利益を出す方法や、経費を増やして利益を拡大する方法などを紹介。儲けの仕組みを体感することができる。

[投資家視点のファイナンス論]

 メアリー・バフェット、デビッド・クラーク/著 峯村利哉/訳 徳間書店

ウォーレン・バフェットがどういう発想、考え方で企業価値を見積もっているかを紹介した読み物。経営者視点のファイナンス論の反対側には、常に投資家が存在する。投資家向けの本だが、投資家が経営者のファイナンスをどう見ているのかを理解するには好適な1冊。

 中神康議/著 日本経済新聞出版社

株を短期売買される経営と、長期保有される経営の分岐点を、投資家である著者が解説。「会社なんて利殖マシンだろ」という株主も、「創業者だから勝手にやる」という経営者もダメで、長い時間軸で企業価値を上げていくことが両者の利益につながることを教えてくれる。

 ウィリアム・N・ソーンダイク・ジュニア/著 長尾慎太郎/監修 井田京子/訳 パンローリング

株価を上げた経営者こそ名経営者であると定義して、米国の8社を抽出。各社の経営者がどんな経営をしてきたかに焦点を当てて解説する。知名度が低い会社ばかりだが、企業価値という1点において高いリターンを出し続ける人たちがどんな経営をしているかを学べる。

*本記事は「NewsPicks Magazine Vol.2」からの転載です。