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デジタルで「完コピ」できる時代、芸術はどう変わるのか

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大学時代の卒論のテーマの本が『複製技術時代の芸術』。これは近代メディア論の一番基礎になっている本です。本書が刊行されたのはちょうど写真が普及し始めて、映画が生まれて間もない頃です。

写真以前は、芸術作品がコピーできない時代でしたが、写真が現れて複製ができるようになりました。映画はいわば演劇をコピーしたものです。そこで、ヴァルター・ベンヤミンが、「芸術作品は、人を幸せにしたり気持ちを動かしたりするオーラを持っているが、それはコピーしても残るのか」について考察した、すごく痺れる本です。

当時、なぜこの本について卒論を書いたかというと、ちょうどインターネットが普及し始めた時だったからです。例えば、ニコニコ動画は、完全なデジタルコピーの映画館ですよね。デジタルで完全コピーできるようになる時代に、芸術がどう変わるか気になったのです。

今後は、VRやホログラムによって、リアルな会話や体験も複製できるようになります。そうした新しいメディアのことを考えるときに、古典に立ち返ると何かヒントがあるかもしれません。

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2冊目の『READ THIS IF YOU WANT TO TAKE GREAT PHOTOGRAPHS.』は、僕がニューヨークに初めて行った時に買った本です。

この本にはいい写真を撮るための文法が詰め込まれています。結局、何の分野でもそうですが、名前がついて初めて概念が人の中に定着して、理解しやすくなります。

フレンチのシェフがなぜフランス語を勉強しないといけないかというと、フランス語でしか存在しない概念や表現があるからです。

本書でも、レイヤードルック、ライトトレイルといった写真撮影の文法が50ほど記されています。インスタ向けのカッコいい写真を撮りたい人にはお薦めです。

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「意味のイノベーション」を言語化した最高の一冊

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3冊目は、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』です。そもそもインターネットという空間はヒッピーがつくった文化ですが、その中でも一番尖っていたのがグレイトフル・デッド。スティーブ・ジョブズも夢中だったバンドです。その伝説的なバンドの広め方にこそ、マーケティングの神髄があるのではないかという本です。

例えば、彼らは曲のコピーを許可しました。ライブ会場には、テーパーセクションといういい音声で録音できる場所を設けて、海賊版のテープを作らせたのです。要は、曲がタダでファン同士で交換されて裾野が広がれば、高いお金を出して本物を買う人が増えるという戦略です。オープンソース、SNS、フリーミアムなど今に通じるエッセンスがたくさん詰まった本です。

『突破するデザイン』は、クラシコム創業者の青木耕平さんが推薦してくれた最高の1冊です。ミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティ教授が、デザイン要件を果たしたイノベーションを解説しています。Airbnb、5本指アウトドアシューズのビブラムなど例がいっぱい載っています。

デザインの本ですが、いわゆるデザインではなく、「意味のイノベーション」をテーマにしています。表面的な話ではなく、「このプロダクトやサービスには、どんな時代を象徴するような意味づけがあるのか」を言語化しています。巻末の付録に「意味のイノベーションの事例」が書いてありますので、そこから読むとわかりやすいはずです。

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』は、僕のようなアート型経営者の言いたかったことを見事に代弁してくれた本です。 

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著者の山口周さんは、人間にはアートの人とクラフトの人とサイエンスの人の3種類がいて、日本の会社では基本的にクラフトとサイエンスの人が偉くなりやすいと書いています。日本の会社では説明責任が求められすぎるので、アートみたいな言語化できない文脈が認められにくいのです。

でも、説明できなくても、いいものはいい、ダサいものはダサい。山口さんと話した時に、「能の世界では、師匠を見るな、師匠の見ている方を見ろ」という教えがあると紹介してくれました。何でも細かく説明するよりも、方向性を共有することの方が人材育成の点でも大事なのではないでしょうか。

最後にお薦めする高城剛さんの『50mm』は挑戦的な作品です。「50mm」はカメラのレンズが「50mm」という意味です。

スマホのカメラは基本的に28~35mmなので、僕らが今日デジタル上で目にするほとんどの写真は28~35mmです。しかし実際には、人間の目には50mmが近い。そんな50mmの写真を大判のレイアウトで見ることで世界のエッジが立ったリアルを知りましょう、というコンセプトが面白い。 

これからの時代は写真や映像やVRによりストーリーを伝えるビジュアルストーリーテリングが大事になってきますが、そんな時代を体現した作品です。

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Book List

 ヴァルター・ベンヤミン/著 佐々木基一/編 晶文社

すごくアカデミックで脚注も多い本です。46ページの「観客はいわば試験官である。だが、きわめて散漫な試験官である」というフレーズが特に好きです。本書が書かれた時代も現代も人間の本質は基本的に変わりません。インターネット時代におけるクリエイティブやアートを考えるときに示唆深い1冊です。

 Henry Carroll/著

これはヤバい本です。プロっぽい写真を撮るための構図、撮り方などがビジュアルと共にわかりやすく解説されています。この本に触れると、クリエイティブに触れるときの解像度がめちゃくちゃ高まります。手元にあると何かと便利な1冊です。洋書ですが、簡単な英語ですので気軽に読めますよ。

 デイヴィッド・ミーアマン・スコット、ブライアン・ハリガン/著 糸井重里/監修 渡辺由佳里/訳 日経BP社

最高のマーケティングの教科書。グレイトフル・デッドの時代は、インターネットもSNSもサブスクリプションもない時代でしたが、「音楽をタダにしてライブやグッズなどで稼ぐ」という現代のマーケティングを先取りしています。今はネットが広がったことで、同じ手法を個人でも実践しやすくなっています。

 ロベルト・ベルガンティ/著 八重樫 文、安西洋之/監訳 立命館大学経営学部DML/訳 日経BP社

デザインというのは想像以上に重要で、ビジネスに大きな影響を与えます。この本を読むと「デザインがビジネスにどう貢献するのか」がよくわかります。僕らも動画を創るときには、テロップの色からモーションの出し方まで深い理由に基づいて選んでいます。そうした意味づけがプロダクトを強くするのです。

 山口 周/著 光文社

経営におけるアートとサイエンスとクラフトの説明を楽にしてくれる魔法みたいな本です。かつては僕も、アート的なものもどうにか説明しようと苦労していたのですが、この本を読んでから、すべてを数字や言葉で説明しなくてもいい、方向性を共有することの方が大事だ、と開き直れるようになりました。

 高城 剛/写真・文 晋遊舎

コンセプトが挑戦的です。高城さんは「インターネットを捨てよう」とも言っていますが、インターネットにはいい部分と悪い部分があって、人間の時間を細かく削り取っていきます。そういう時代だからこそ、リアルな現場やオフラインに身を置くのが大事ですし、本を開く意味もそこにあるのかもしれません。

本記事は「NewsPicks Magazine Vol.2」からの転載です)

*明石ガクト氏が動画制作の思想について語ったNewsPicksアカデミアのイベント「動画2.0」(2018年11月16日開催)は、から視聴可能です。